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「2024年問題」を契機に日本の物流品質をサプライチェーン全体で磨きをかける

「Manufacturing Japan Summit 2024」のパネルディカッションから

齋藤 公二
2024年4月17日

荷主と物流業者が新しい関係を築けなければサステナブルにならない

茨木 :物流業界の「2024問題」に対する危機感や将来への期待について、どう考えていますか。輸送能力が不足すればSCMにおける商品や資金、情報管理が成立せず経済全体が滞ってしまいます。

多田 :金型業界全体で見れば現状、切迫した話題になっているわけではありません。しかし、働く時間に制約が設けられれば自然と競争原理が働きドライバー獲得などの物流コストは、どんどん上がっていきます。その過程で従来並の運賃で運んでくれる物流業者がいなくなった時点で、やっと荷主も動き始めるのでしょう。これから大きな問題になるのだと思います。

 金型の場合、配送時間は比較的ルーズでも良いのですが、成形品になると誤差15分以内での配送が求められることもあります。荷主が気づいたときには物流が機能していないこともあるだけに、荷主と物流業者を含めた大改造により問題に当たらなければならないでしょう。

伊藤 :今こそ、荷主と運送業界、物流サプライチェーンが新しい関係を築くチャンスだと前向きにとらえています。実際、さまざまな立場の方と話すなかで「これをやっていかないとサステナブル(持続可能)ではない」という共通理解が得られるようになっています。常識にとらわれない日本のモーダルシフトを提示できる良いタイミングです。

河合 : 林業や漁業など地方の一次産業は、長距離トラック輸送で大きな影響が出るはずです。物理的に運べない、運べても運賃は高いという問題からです。国としても2024年4月以降、さまざまな法改正案や施策が出てくると思います。

 当社では、トラックというインフラを開放し「大阪まで持ってきてくれれば後は九州まで運びます」といった取り組みを進めています。以前は荷物を「取った」「取られた」で運送業者同士のケンカになることもありましたが、今はそんなことを言っている場合ではありません。会社単体ではなく、業界として“負の部分”を一緒に取り除いていく必要があります。

 こうした動きのきっかけになったという点では、2024年問題はポジティブにとらえています。

日本の物流は共通化・標準化で遅れるも効率化の環境は整っている

茨木 :日本が今後、物流サービスで優位性を持つためには、どのような取り組みが必要でしょうか。

多田 :海外では陸送時に金型部品が破損することがよくあります。それに比べて日本の輸送は丁寧です。こうした優位性を保つためには、実状をみんなで共有しながら意見を聞き、荷主が対応できることは対応するなどが大事でしょう。

 一方で欧州では、パレットが共通化・標準化されていて運送が容易です。日本では自動車部品を運ぶ箱は種類によってバラバラです。共通化・標準化は物流コストを下げるだけに、より大きな視点で取り組んでいくことが重要です。

伊藤 :日本の物流品質は世界一だと言えますが、課題もあります。例えば海外の輸送は基本的にトレーラーのため、ドライバーは荷物を積み降ろしたりはしません。役割が決まっているため標準化が容易です。日本の標準は分野別ため“共通の標準”を作りにくいなかで新しい仕組みを作らなければなりません。

 新しい仕組みとしては、日本に点在する自然資本由来のエネルギーをサプライチェーンに組み合わせることで地域の外貨獲得に物流会社が貢献している例があります。商用車に搭載したドライブレコーダーの画像データを可視化し、さまざまな取り組みに生かすといった取り組みもあります。日本に特徴的な仕組みを視野を広げて連携し価値に変えられれば、日本発のサービスとして海外に展開できる可能性はあります。

河合 :海外では1社の荷主の荷物は1台のトラックで運ぶのが一般的です。日本では以前から複数の荷主の複数の荷物を積み合わせて効率を高めていますが、これは世界には、なかなか例がありません。日本は他国に比べ効率的に運べる環境が整っているのだから、さらに磨きをかけることが重要でしょう。環境負荷が低い輸送にもつながるだけに、そうした分野に優位性を見いだせれば良いと考えます。

 またAI(人工知能)技術を使って積載率を高める取り組みやドローンを使った配送など省人化・無人化の取り組みも始まっています。これらのオペレーション効率を高めることも大きな強みになるでしょう。

伊藤 :現場を見れば新しい気づきを得ることも少なくありません。現場の経験を仮説に、AI技術やシミュレーションソフトなどのテクノロジーを使いこなすことがポイントになります。

茨木 :データやシステムに加え、現場を熟知している人が俯瞰的に判断するという軸が重要です。そこが、システム好きな欧米に勝てる日本の強みになります。そのうえでデータを共有し業界を超えて判断していくことが大切でしょう。