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  • 生成AIで始める業務改革

生成モデルの活用ではカイゼンなど”日本の強み”の視点からの議論が必要

「DIGITAL X DAY 2023」より、花王/東京大学大学院/Preferred Networksの丸山 宏 氏

江嶋 徹
2023年12月11日

「ChatGPT」などが採用する生成モデルに基づくAI(人工知能)技術の台頭は、ビジネスや社会をどのように変えていくのだろうか。花王 エグゼクティブ・フェローで、東京大学大学院 人工物工学研究センター 特任教授、Preferred Networks 取締役でもある丸山 宏 氏が、「DIGITAL X DAY 2023 生成AIで始める業務改革」(主催:DIGITAL X、2023年9月)に登壇し、生成モデルのインパクトやAI技術との付き合い方について解説した。

 「自然言語での質問に対し色々な回答文を生成してくれるChatGPTは、ごく簡単な生成モデルと言語モデルだけで人間の言語能力を高度に模倣できる点で世界を驚かせた」――。花王 エグゼクティブ・フェローで、東京大学大学院 人工物工学研究センター 特任教授およびPreferred Networks 取締役でもある丸山 宏 氏は、こう語る(写真1)。

写真1:花王 エグゼクティブ・フェロー 兼 東京大学大学院 人工物工学研究センター 特任教授 兼 Preferred Networks 取締役の丸山 宏 氏

 ChatGPTは「インターネット上の大量の言語データ、テキストデータを訓練データとして作成した生成モデルに基づき、ある文脈を与えられたときに、次にくる単語が何かを予測している」(丸山氏)。ただ常に正しい回答を出すとは限らない。「ハルシネーション(hallucination:幻覚)」と呼ばれ、「一見、もっともらしい嘘を堂々とつくこともある」(同)。

 そうした課題はあるものの、その便利さや手軽さから、多方面で活用法が模索されている。例えば東京都は、職員向けに「文章生成AI利活用ガイドライン」を配布している。文書作成の補助、アイデア出し(壁打ち)、ローコードの生成といった具体的な利用方法や利用上のルール、効果的な使い方、ChatGPTへの質問の組み立て方のコツなども解説している。

 都のガイドラインについて丸山氏は、「非常に上手な使い方だと思う。どんな状況で、誰に、何を伝えたいのかといったツボを押さえた質問によりをすることで、目的に合った文章が作れることが説明されている」と評価する。

訓練データによる“模倣”の仕組みには限界がある

 生成モデルを有効活用すれば、さまざまな仕事の生産効率が高まり、世の中の仕事が大きく変化すると指摘されている。米金融大手のゴールドマン・サックスは「約3億人が生成AIによって仕事の影響を受ける」と発表。米IBMも「社内で7800人分の雇用がAIに置き換えられる可能性があり、それに合わせて雇用を見直す」と公表している。

 だが丸山氏は、「人の仕事は変化しても、なるくなることはないだろう」と話す。過去の例を見ると、「テクノロジーの登場でなくなった仕事もあれば、新たに増えた仕事もある。自動車の登場で、馬の御者や飼葉業者という仕事はなくなったが巨大な自動車産業が誕生した。インターネットの登場では、電話交換手は職を失った代わりにWeb関連の産業が成長した」(同)からだ。

 ChatGPTのような生成モデルは、過去に観測された訓練データを模倣し、新しいものを予測する仕組みになっている。そこには「3つの本質的な限界があると考えられている」と丸山氏は指摘する。

■限界1: 観測した時点の過去の世の中の仕組みから、今の世の中の仕組みが変化すると正確な予測ができなくなる
■限界2: 有限な過去の訓練データがカバーできる範囲は限られ、訓練データにない希少な事象に対しては無力である
■限界3: 訓練データにバイアスがかかるとハルシネーションが発生し100%の正しさが保証できない

 加えて丸山氏は、「AI(人工知能)技術の世界では“模倣”だけでなく“探索”というテクノロジーも重要である」と話す(図1)。例えばゲーム領域では、チェスや将棋、最近では囲碁でもコンピューターがプロの人間に勝つようになってきている。「これらは基本的に探索問題であり、相手が打つ手に応じた最適な手をAI技術が探している」(同)

図1:AI技術における模倣と探索の比較

 人間の思考に当てはめれば、“模倣”は頭の中で思いを巡らせる行為、“探索”は紙や鉛筆を使って論理的に考えを積み上げていく行為である。「今後は、模倣と探索のいずれか一方では解けない問題を、両者を組み合わせて解いていく新たなシステムが次々に登場すると考えられている」と丸山氏は紹介する。ChatGPTにおいても「模倣と探索を組み合わせた拡張が進んでいる」(同)という。

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