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ベンチャー発のスマホアプリが“お薬”に、禁煙対象にした治験を開始

田中 克己(IT産業ジャーナリスト)
2017年10月10日

薬剤、医療機器に次ぐ“第3の治療法”として事業化したい」−−。医療ベンチャーであるキュア・アップの佐竹 晃太 社長は10月初旬、ニコチン依存症を対象にした治療アプリケーションの治験開始の会見で意気込みを語った。医薬品や医療機器では治療しきれない疾患への新たな治療として、ソフトウェアが、どんな効果を上げられるのかが注目されている。

 国内では2014年11月の薬事法の改正で、医療ソフトウェアは薬事の規制・承認の対象になっている。先行する米国では、たとえば、糖尿病の専門医が立ち上げた米Welldocが開発した治療アプリが、FDA(米国食品医薬品局)から治療効果のあるアプリとして承認され、医療薬と同様に扱われ、保険償還の対象にもなっている。同アプリでは、患者自身が血糖値のデータなどを入力し、それを基に指導を受ける。こうした治療アプリの論文発表が増えており、治療アプリの事業化も現実味を帯びてきた。

 キュア・アップが開発するニコチン依存症治療アプリは、患者が日々の体調などをスマホから入力すると、診療ガイダンスに沿った禁煙指導のほか、服薬や通院などを管理する。医師があたかもマンツーマンで心理的治療をしているような環境を作り出す。たとえば、患者が「たばこを吸いたくなる」と、その気持ちを紛らわせるように治療アプリが患者に話しかける。同社と慶応大学呼吸器内科学教室が臨床研究を重ねてきたもので、医学的エビデンスに基づいた治療内容だという。

 全国に約1万6000ある医療機関に外来する喫煙患者は約25万人、禁煙挑戦者は年間600万人に上る。ところが治療をしても7割以上が再喫煙してしまう。治療成績が不良なのは「次の診療までの空白時間にある」(佐竹社長)。一般的な診療では、禁煙補助薬などの身体的/心理的な反応を2週間〜1カ月に一度のペースで実施する。その診療と次の診療までの間、患者は自宅などで自己管理することになる。さらに佐竹社長は「喫煙は、個人の生活習慣病ではなく、薬物依存症だ」と指摘する。そこを治療アプリが埋める。

ニコチン依存症を対象にした治療アプリケーションの治験開始の会見で話すキュア・アップの佐竹 晃太 社長(左奥)

 治療アプリの治験は、2017年10月から2019年3月までの1年半にわたり、慶応大学病院や、さいたま市立病院など31の医療機関で実施する。580人に適用し、治療後、半年後、1年後の継続禁煙率をみる。治験の調整委員会委員長に就任した、さいたま市立病院内科科長の館野 博喜 氏は「日本初の治療アプリになる」とする。ちなみに臨床研究では、24週間後の完全禁煙継続率は標準禁煙治療法のみの40.8%に対して、治療アプリを加えた治療は67.9%だった。

 たばこの政策研究・立案に取り組んでいる日本禁煙学会理事の望月 友美子 氏は「即効性のある治療がなかったので、治療アプリは朗報」と、禁煙率スピードが高まることを期待する。良好な治験結果が出たら「その半年後に承認申請を考えている」(佐竹社長)。

 佐竹社長自身、現役の呼吸器内科医師だ。2007年に慶応大学医学部を卒業後、日本赤十字医療センターなどに勤務し、その後、米国や中国の大学に留学した。その間に、スマホを使った糖尿病治療などを知った佐竹社長は「驚くとともに、新鮮さを感じた」という。帰国した佐竹社長は、やはり医師でありプログラミングもできる鈴木 晋 氏(取締役CDO:最高開発責任者)とともにキュア・アップを2014年7月に設立した。

 なお、治験開始の会見には、兵庫県立尼崎総合医療センター院長の藤原久義氏、日本遠隔医療学会常務理事の長谷川高志氏、慶応大学医学部呼吸器内科専任講師の福永興壱氏らも出席した。