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2023〜25年に向けた日本のテクノロジー人材の姿、ガートナー ジャパンが厳しい展望

DIGITAL X 編集部
2020年4月13日

日本における今後3~5年のテクノロジー人材に関する展望を、調査会社のガートナー ジャパンが発表した。デジタルトランスフォーメーション(DX)のインパクトの認識は広がっているものの “自分ゴト”としてとらえ切れておらず、自らが変わろうとしなければビジネスインパクトは創出できないと、厳しい見方になっている。2020年4月1日に発表した。

 ガートナー ジャパンが発表したのは『日本におけるテクノロジ人材の将来に関する2020年の展望』。2023年〜2025年を見据えテクノロジー人材として重視すべき点を指摘している。

 テクノロジー人材を同社は、「自らのアイデア、知識やスキルとクラウドやAI(人工知能) といったテクノロジを組み合わせ、行動に結び付けることができる人材)と定義している。その将来については、「スキル、マインドセット、スタイル(芸風)をどうするかが重要なポイントになるとする。

 今回の展望について、ガートナー ジャパンのアナリストでディスティングイッシュト バイスプレジデントの亦賀 忠明 氏は「デジタルのトレンドが当たり前になる中、多くの企業が、新しいことを推進する必要性を認識しつつあるが、検討の結果『人ない、金ない、時間ない』となり、結局は『何もしない』となるケースも多く見られる」と語る。

 またIT部門についても「『ITはコストであり、IT人材も内製化するのではなく外注する』と言う人もいる。そのようなIT部門は、既存業務システムの『外出し』は継続できても、新規のテクノロジでビジネス・インパクトを出せるような取り組みができず、次第に社内での存在感を失っていく」としている。

 ガートナーがテクノロジー人材の展望として挙げたのは以下の6つである。

展望1:2023年までに、日本企業の60%は、新たなマインドセットの獲得に苦慮する

 デジタルトランスフォーメーション(DX)の実現には根本的な構造変革が必要だ。だが「それをリードするようなポジションにIT部門が位置すると評価している企業は、ほとんど存在しない」とガートナーは指摘する。一方で、「従来どおりの対応では済まなくなってきていることに気付き始めている」(同)ともいう。

 ガートナーはこれまで、システムの「バイモーダル」を提唱してきた。管理系の「モード1(Systems of Record:SoR)」と顧客接点を司る「モード2(Systems of Engagement:SoE)」からなる。このバイモーダルへの認知は高まっているものの、「それに対応するための人材の変革については、まだ緒に就いたばかりの企業が多く見られる」(ガートナー)とする。

 特にモード2への対応において、「スキル、マインドセット、スタイルの3つの要素の強化が必要なことを理解している企業は少ない」と指摘する。マインドセットの強化に向けては、「中長期に改善を図ったり獲得したりするものなので、企業、組織および人は、継続的なイニシアティブとして推進する必要がある」(同)としている。

展望2:2023年までに、デジタルディスラプションへの対応などを前提として、新しいビジネスアーキテクチャーを策定して推進しようとする日本企業の80%は、リーダーシップやスキルを持つ人材の不足を理由に、何もできないままに終わる

 ガートナーは新しいビジネスアーキテクチャーを「新しい時代に即し、People-Centric (人中心) の原理原則に基づき、テクノロジやデータ駆動型のプラットフォームを前提としたもの」とする。破壊的テクノロジの利用を前提に、消費者と生活者に対し早い、安い、より満足を提供し、従業員に対しても新しいスタイル、新たな経験や満足をもたらすのが目的だ。

 その新しいビジネスアーキテクチャーの策定と推進は、「ほとんどの企業にとってこれからのチャレンジ」(ガートナー)。2023年にかけて、その浸透には時間がかかるとする。しかし2023年になっても、「その必要性に気付かない企業が存在し、仮に気付いたとしても、何もできないという結果に終わる企業がほとんどになる可能性がある」(同)と予測する。

展望3:2023年までに、Amazon Web Servicesなどの本物のクラウドの認定資格を取得するユーザー企業の割合は60%を超え、スキルを持たないベンダーやインテグレーターにとっての脅威となる

 一部のユーザー企業は、クラウドを「自分で運転」し始めているという。「この流れは不可逆的なものであり、今後、クラウドやAIなどに関するユーザーのスキルレベルが、ベンダーやシステムインテグレーターのそれを上回るという事態が多くの場面で顕在化してくる」とガートナーは予測する。ベンダーにシステム構築を依頼しない動きが「特にモード2やアジャイル、デジタルの領域において一部の企業で始まっており、今後もこの傾向は継続する」(同)とみる。

展望4:2023年までに、クラウドやAIといった新しいスキルを身に付けないIT部門の90%は、企業に多大な機会損失をもたらし、社内外でのポジションをさらに低下させる

 ガートナーが2020年1月に実施した調査によれば、クラウドやAIに関するスキル獲得について半数弱の企業が前向きだった。一方で、スキルの獲得に消極的だったり、テクノロジーや時代の変化に合わせたリテラシーが不足したりする組織や人も存在する。クラウドやAIのスキルは、「2020年代を生き残るための重要な基礎的な要件であるが、すぐに身に付くものではない」(ガートナー)からだ。

 すでにクラウドネイティブと一般のIT部門の間には、「10年以上に相当するスキルギャップが生じている」とガートナーは指摘する。こうしたギャップは、「相対的な機会損失を将来さらに拡大させ、このままでは10年以内に企業や組織の存亡に関わるリスクとなり得る」とする。

展望5:2023年までに、メンバーの説明能力の向上を継続的に進めないIT部門の80%は、デジタルビジネスへの取り組みから疎外される

 デジタルビジネスにおいては、複数の部門あるいは複数の企業をまたいで多様な人材の力を結集させる必要であるだけに「デジタルビジネスに取り組むIT部門のメンバーには十分な説明能力がなければ他部門とそのメンバーに素晴らしいアイデアや革新的なテクノロジーの価値は伝わらず、IT部門と、そこにいる人材の重要性も伝わらない」(ガートナー)。

 ガートナーは「2023年までにメンバーの説明能力の向上を継続的に進めないIT部門の80%は、デジタルビジネスへの取り組みから疎外される」と予測している。

展望6:2025年までの間、「日本で標準的なスキルを有する」と考えている企業の40%は、インフラストラクチャとオペレーション (I&O) 部門のスタッフの高齢化問題に悩まされ続ける

 人口の年齢構成の変化は「企業内の人材の年齢構成と、それに伴う生産性の低下だけでなく、ITの推進自体にも影響を及ぼし始めている」とガートナーは考えている。「日本企業のIT部門では、ITスキルのブラックボックス化 (属人化システムの弊害によりスキル移転が困難) や、新しい技術に即応できないといった苦悩が数年前から見られる」(同)からだ。

 2019年1月に実施したユーザー調査では、ユーザー企業の7割が「自社のテクノロジー人材について、日本で標準的なスキルを有する」とした。しかしテクノロジーの進化のスピードは年々早まっており、これまで以上にビジネス状況やテクノロジーの変化への感度を高める必要がある。

 さらに高齢化問題の根幹には、「過去や今に固執すること、変化を嫌うこと、新しいテクノロジーへのモチベーション」があるとしたうえで「今のままをよしとする振る舞いや考え方そのものが、インフラ&オペレーション部門の高齢化問題を放置してしまう可能性がある」と指摘する。