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JR東日本、信号通信設備や運行管理システムにAIエージェントを導入へ

DIGITAL X 編集部
2025年6月18日

JR東日本(東日本旅客鉄道)が鉄道業務を対象にした生成AI(人工知能)アプリケーションの開発に取り組んでいる。2027年度末までの計画で、2025年度は信号通信設備と運行管理システムの復旧支援への導入または実証を実施する。運行管理業務の効率と安定性を高めるのが目的だ。2025年6月10日に発表した。

 JR東日本(東日本旅客鉄道)は2027年度末を目標に、鉄道業務への生成AI(人工知能)技術の適用に向けた開発を進めている。2025年度は運行管理業務を対象に2つのプロジェクトを進める(図1)。対応工数や時間を削減し運行管理業務の効率を高め、より少ない人数でも安定した鉄道運行を実現できるようにするのが目的だ。

図1:JR東日本が2025年度に実施する生成AIシステムの導入計画

 1つは、信号通信設備の故障発生から復旧までを対象に指令員を支援する生成AIシステム(図2)。2025年度内に、新幹線と首都圏の在来線の信号通信設備に導入し、復旧までの時間を従来比で最大50%の削減と、乗客に運転再開見込み時刻を早期に提供することを目指す。新幹線と在来線への本システムの導入は、これが国内で初めてという。新幹線には2025年第3四半期に、在来線には同第4四半期にそれぞれ導入する予定である。

図2:信号通信設備の故障発生から復旧までを支援する生成AIシステムの概要

 首都圏在来線の信号設備の一部には2023年3月から、故障発生時に指令員の判断を支援するAIシステムを導入してきた。今回、現行システムを改良し、推定原因や対応方針、復旧見込時刻を表示できるようにする。具体的には、(1)無線通話から生成AIが作業経過を作成、(2)解析技術を機械学習から生成AIに変更、(3)マニュアルなど基本情報の入力の簡素化の3点を実施する。

 もう1つは、首都圏の運行管理システム(ATOS:Autonomous decentralized Transport Operation control System)における故障箇所を特定するための生成AIシステム(図3)。導入に向けた実証実験を2025年9月から実施する。ATOSのような大規模な鉄道運行管理システムへの生成AI技術の利用も国内では初めてという。

図3:運行管理システムの故障個所の特定と復旧方針の決定を支援する生成AIシステムの概要

 実証では、ATOSとして複数拠点で連動している複数機器の1つに障害が発生した場面を想定し、関連する機器が発するアラートと現地作業員からの現場情報とが錯綜する中で、生成AIが原因究明と復旧方法を特定できるかどうかを検証する。

 そのために鉄道運行管理に特化した大規模言語モデル(LLM:Larage Language Model)を構築。そのうえで熟練者の思考プロセスを再現した故障対応のためのAIエージェントを開発する。人による膨大なマニュアルを参照しながらの調査作業を支援することで、属人化から脱却し、経験の浅い社員でも熟練者と同等の復旧プロセスを取れることを見込んでいる。

 これらの復旧支援システムは、導入後も機能向上を続けるとともに、他分野への導入も検討する。

 信号通信設備のための生成AIはBIPROGYと、運行管理システムの生成AIシステムは日立製作所と、それぞれ共同で開発している。

デジタル変革(DX)への取り組み内容
企業/組織名JR東日本(東日本旅客鉄道)
業種交通
地域東京都渋谷区(本社)
課題鉄道の運行管理において故障が発生した際に、その原因特定や復旧手順の作成には膨大なマニュアルを参照する必要があり、時間がかかると同時に、熟練者の経験と知見に依存しており、復旧までに時間を要している
解決の仕組み信号通信設備と運行管理システムを対象に生成AI技術を適用し、故障個所の特定や対応方針の判断を支援する
推進母体/体制JR東日本、BIPROGY、日立製作所
活用しているデータ鉄道運行管理システムの仕様書、故障対応シナリオ、熟練者のノウハウなど
採用している製品/サービス/技術LLM、AIエージェント
稼働時期2025年9月(運行管理システムでの実証実験の開始時期)