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相次ぐ個人情報漏洩、サイバー攻撃は委託先や顧客基盤、社内システムまで
脆弱性を探索するAI技術の悪用に備えて基本対策の見直しを
攻撃者によるAI利用がサイバー攻撃が急増の背景に
攻撃者によるAI技術の活用(悪用)は、倫理的な制約を外したLLM(Large Language Models:大規模言語モデル)ベースのツール「WormGPT」が、2023年にダークウェブで出回ったころから表面化した。
実際ランサムウェア集団として、2025年にアサヒホールディングスを標的にQilinグループ、アスクルにRansomHouseが、実在の組織などを装って情報をだまし取るフィッシングメールの作成などでAI技術を活用していたと報道されている。LLMの発展によって、自然かつ精度の高い日本語テキストが生成できるようになり、ターゲットにしやすくなったようだ。
専門家が指摘するAI技術の悪用は、攻撃の準備段階から侵入後まで幅広い。主な用途を攻撃の流れに沿って挙げると、次のようになる。
●攻撃対象の抽出 :インターネット上のシステムやIoT(Internet of Things:モノのインターネット)機器から、攻撃の足がかりになるものを抽出したり、認証情報を対象に収集したりする
●システムやアプリケーションの分析 :ソースコードのリポジトリ(保管庫)などを調べ、システムやアプリに脆弱性がないかをスキャンする
●フィッシングメールやマルウェアの作成 :実際のメールを下敷きにフィッシングメールの文面を作成したり、公開ソースコードを基に脆弱性を突くマルウェアを作成したりする
●侵入後のシステム調査 :侵入後にシステムの構成をAIエージェントに調べさせ、脆弱性の有無やソースコードの保存場所を検索する
●調査レポートの作成 :侵入したシステムの脆弱性や内部構成を、AIにレポートとしてまとめさせる
今回の一連の攻撃でも、AI技術の関与を示す材料が出ている。脆弱性情報などを収集するJPCERTコーディネーションセンターは2026年10月15日、攻撃に使われた可能性のあるインフラを調査した結果「攻撃者がAI技術を使って既知の脆弱性のスキャンやAPI経由での攻撃などを実施していたことを確認した」と報告している(参考:JPCERT/CC Eyes)。
また、生成AI技術は不正利用の対象にもなっている。セキュリティサービスを手掛けるラック(LAC)によると「攻撃者が盗んだ認証情報を使い、AI開発サービス『Vertex AI』(米Google製)を経由したAIモデル「Claude」(米Anthropic製)の大量利用や、生成AIサービス「Amazon Bedrock」(米AWS)の不正利用などを確認」したと、同社ブログで報告している(参考:LAC WATCH)。
AIの悪用では、進化が著しいフロンティアAIなどを引き合いに「AIが自律的に企業を攻撃し始めた」といったセンセーショナルな報道がなされる場合もある。海外では低コスト攻撃の実例が確認されているが、ラックによればこれまでのところは「現時点で、国内の一連の事案にAIエージェントが直接関与したという公開証拠はない」(同)ようだ。
サイバー攻撃は、一定の攻撃プロセスに沿って実行されることが多い。具体的には「偵察」「武器化」「配送」「攻撃」「インストール」「コマンド&コントロール」「目的の実行」などに分けられるが、これらのほとんどのプロセスでAIが活用され始めていると考えられる。
情報資産全体に残っている弱点を継続的に点検・是正を
今回のサイバー攻撃の急増について、ラックは「攻撃は一過性の問題ではない」とみる。同社の調査によると、攻撃は、複数の攻撃経路と幅広い業種に分布しており、侵入経路も、Webアプリケーションや既知脆弱性の悪用、認証情報の窃取、APIの悪用など一様ではない。
そのため、対策としては「どの攻撃手法が流行しているか」ではなく「自社に攻撃可能な弱点が残っていないか」という視点が重要であり、「インターネットに公開されている情報資産全体を継続的に把握・是正する姿勢が求められる」とする。
攻撃の広がりと頻発を受けて行政も動く。内閣官房国家サイバー統括室は2026年10月14日、警察庁や個人情報保護委員会、金融庁、総務省、経済産業省、IPA(情報処理推進機構)など各機関からの注意喚起や対策を、Webサイトにまとめて掲載した(参考:国家サイバー統括室)。
各機関の発表内容を見ると、特定の対策ではなく、いずれも基本的なセキュリティ対策の徹底や見直し、強化を求めるものが多い。例えば同室が10月9日に文書では(1)ウェブシステム等の適切な管理、(2)サプライチェーンを通じた侵害への対策、(3)データの適切な管理、の3つを柱に据え、いつ攻撃を受けてもおかしくないという前提に立ち、基本の徹底を促している。
ウェブシステム等の適切な管理は、インターネットに公開したシステムを守る対策。具体的には脆弱性の管理、アカウント管理・認証、レジリエンス(弾力)の向上を挙げる。
サプライチェーンを通じた侵害への対策は、委託先と共に情報を守る取り組み。委託先の対策状況の把握、委託契約でのセキュリティ要件の明確化、委託先と共有する情報の適正化、サプライチェーン全体のリスク管理を求める。
データの適切な管理は、侵入を許した場合の被害を小さくする対策。保有する情報資産の管理と最小化、アカウント管理・アクセス制御、データ保護の徹底、ログの取得・監視・分析の強化を求める。
攻撃側と防御側の非対称性をどう埋めるかが課題に
AI技術を悪用する攻撃者は、攻撃のスピード、範囲、量、質を圧倒的に高めている。しかも一度の成功で目的を果たせばよい。一方の防御側は、一度突破されれば大規模な漏洩に直結する。セキュリティ対策にかけられる予算や人員に制約があるなかで、対策が追い付いていないのが現状だ。
ただ、防御側でもAI活用は進んでいる。例えば「識別」「防御」「検知」「対応」「復旧」といった対策ブロセスのなかでは、攻撃検知の速度や精度を高めたり、復旧に向けた調査や報告を早めたりする取り組みがある。また、検知から対応、復旧までの一部をAIエージェントに任せるサービスも出始めている。
それでも「非対称性」を根本的に解消することは難しい状況だ。国家的なセキュリティ対策の整備が仮に実現しても、実際に具体策として落し込まれるまでは長い期間を要し、その間は脅威に晒され続けることになる。
現時点では、セキュリティ企業や官公庁が推奨する基本を徹底していくことが、企業が取るべき対策の軸になる。具体的には、個人情報の所在やWebサイト・APIなどの情報資産を棚卸しすること、MFA(Multi-Factor Authentication:多要素認証)の徹底やアクセスキーの入れ替えなど認証情報の管理を強化すること、委託先に渡す情報の対策状況を継続的に確認すること、アクセスログや認証ログを点検・分析して不審な取得がないかと確かめること、などだ。