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米アメリカン航空、運行遅延の削減に向け予測型データ分析を推進

冨永 裕子(ITアナリスト/コンサルタント)
2017年11月8日

米アメリカン航空は、世界56カ国、357拠点に就航する大手航空会社である。全世界で930の航空機を運用している。航空会社にとって運航遅延は、顧客満足度を低下させる大きな要因の1つ。遅延の原因はさまざまだが、アメリカン航空では、機体の整備状況に着目。機体から得られるデータを分析することで運航遅延の減少を図っている。

 機体の整備状態は、運行計画に大きな影響を及ぼす。A地点からB地点までの移動なら話は単純だが、実際の運行計画はもっと複雑である。例えば、ハブ空港を出発した機体は、複数の区間を運行し、ハブ空港に戻ってくる。飛行距離が短い場合もあれば長い場合もある。

 米アメリカン航空の整備基地は、本社のあるダラス・フォートワースをはじめ、いくつかの拠点空港に設置されている。整備が不十分な機体が見つかれば、それに対処しながら運行計画を修正する必要がある。ある機体が、どこからどこに向かって飛行しているか、どの整備基地で、どの部品を取り替えればいいかなど、考慮するべき問題は多い。

 この解決に向けアメリカン航空は、機体のヘルスモニタリングに着目した。機体の状態を示すデータを分析して整備計画を練り、最も状態の良い機体を長距離区間に割り当てることで運行遅延を最低限に抑えるのが狙いだ。2015年に着手し、より洗練させた仕組みに改善してきた。

 その経緯をアメリカン航空Reliability部門シニアマネージャーのSeth Babcock氏が、米アナハイムで10月21日から26日にかけて開かれた「Teradata PARTNERS Conference 2017」のブレイクアウトセッション「Predicting Aircraft Health」に登壇し説明した。その内容から、アメリカン航空のデータ活用の今を紹介する。

記述的アナリティクスから予測的アナリティクスへシフト

 アメリカン航空がデータ分析に使用しているデータ基盤が図1である。フライト系では、収益マネジメントや、運行、貨物、手荷物、旅客の各システムから、サービス系では、人事、燃料、マイレージプログラム、部品、予約といったシステムから、それぞれのデータを活用している。

図1:米アメリカン航空がデータ分析に活用しているデータ(Babcock氏のプレゼン資料より)

 当初のデータ分析では、過去に何が起こったかを把握する「記述的アナリティクス(Descriptive Analytics)」が中心だった。記述的アナリティクスは、さまざまな企業が、状況判断のほか、起こった出来事の原因や理由の探索などのために使用している。

 豊富なデータを基に、「これまでの記述的アナリティクスからも、多くの知見を得られた」とBabcock氏は話す。だが、運行遅延をさらに減らすためには、「これまで以上に有用な航空機の状態に関するインサイトを得なければ難しい」(同)と判断。機体のヘルスモニタリングに「予測的アナリティクス(Predictive Analytics)」のテクノロジーを導入することを決めた。

 予測的アナリティクスは、何かが起きる前の予兆から将来を予測する分析手法である。実際に何かが起きてから対応するのではなく、将来に起こりそうなことを見越して、早めに対処することで運航遅延をなくそうという考え方である。