• UseCase
  • 医療・健康

筑波大学とKCCS、皮膚腫瘍の鑑別能力が専門医よりも高いAIシステムを共同開発

DIGITAL X 編集部
2018年8月7日

筑波大学医学医療系と京セラコミュニケーションシステム(KCCS)は、皮膚腫瘍(皮膚ガン)の診断を補助するAI(人工知能)システムを共同開発し、皮膚科専門医よりも皮膚腫瘍の鑑別で高い結果を出した。2018年7月12日に発表した。

 皮膚腫瘍(皮膚ガン)の診断補助システムを開発したのは、筑波大学医学医療系の藤本学教授と藤澤康弘准教授、および京セラコミュニケーションシステム(KCCS)の共同研究グループ。筑波大学が所蔵している皮膚疾患の患部写真を深層学習(Deep Learning)の学習用データに利用し、14種類の皮膚腫瘍を鑑別するシステムを構築した。

 診断精度を同じ画像セットを使い、日本皮膚科学会が認定する皮膚科医13人の診断精度と同システムの診断精度を比較したところ、良性/悪性の識別では、皮膚科医による識別率が85.3%±3.7%だったのに対し、システムの識別率は92.4%±2.1%で、統計上も有意な差が出せた(図1)。14種類の皮膚腫瘍を鑑別する比較では、皮膚科医の正答率が59.7%±7.1%だったのに対し、システムの正答率は74.5%±4.6%と、やはり統計上有意な結果が出た。

図1:皮膚腫瘍の良性/悪性を鑑別するテストでは、AIシステムの識別率が皮膚科医のそれを上回った

 深層学習による画像の識別では一般に、識別対象1種類ごとに最低1000枚の画像を用意する必要がある。しかし、皮膚腫瘍には希少な疾患が多く、十分な量の学習用データを集めることが難しい。

 今回、学習に役立つデータを手作業で選び出し、診断結果ごとに仕分けることで深層学習に利用できるようにした。診断違いなど、学習に役立たない画像データを除外した結果、14種類の皮膚腫瘍の画像約6000枚が残った。このうち1200枚をテスト用に取り分け、残りの4800枚を学習データとして使用した。

 学習データとして選んだ画像は、皮膚腫瘍を中央に配置するようにトリミングしたうえで解像度を1000×1000ピクセルに統一。さらに、画像を15度ずつ傾けながらそれぞれ別の画像として保存した。これにより、1枚の画像データから24枚の学習用画像データを作成した。加えて、学習時には画像をわざとぼかしたり、明るさを±10%の範囲で変化させるなど、撮影状況のばらつきを擬似的に再現した。

 学習モデルは、Googleが作成した「GoogLeNet」を基に作成した。GoogLeNetは、2014年の画像認識コンペティションで優勝した学習モデルで、120万枚の一般的な物体画像で事前学習済みの状態で配布されている。

 今後は、AIシステムの性能評価を続け、数年以内に実際の臨床の現場に投入することを目指す。写真で皮膚腫瘍の良性/悪性を自動的に判定できるようになれば、皮膚科専門医が不足している地域でも皮膚がんの早期発見が可能になると期待する。ただ現状は、希少な皮膚腫瘍に対応できていないため、より多くの疾患に対応できるようにするほか、皮膚腫瘍以外の皮膚疾患にも利用できるように拡張していく。

デジタル変革(DX)への取り組み内容
企業/組織名筑波大学医学医療系、京セラコミュニケーションシステム(KCCS)
業種医療・健康
地域茨城県つくば市
課題皮膚腫瘍の種類を画像だけで正確に鑑別することは皮膚科専門医でも難しい。AIシステムを作ろうにも、皮膚腫瘍が希少な疾患であるため、十分な学習用データが集まらない
解決の仕組み患部写真の形式を統一し、不要な画像を除いた学習用画像セットを用意することで深層学習を可能にする
推進母体/体制筑波大学医学医療系、KCCS
活用しているデータ過去の皮膚疾患の画像データ
採用している製品/サービス/技術深層学習モデル「GoogLeNet」(Google製)
稼働時期不明