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順天堂大学、病院のメタバースを使う医療サービスを日本IBMと共同で研究
メタバースを用いた医療サービスの構築に向けた産学連携の共同研究を、順天堂大学と日本IBMが2022年4月13日に開始した。順天堂大病院のメタバース「順天堂バーチャルホスピタル」を設立し、患者体験の向上と、それによる疾病の改善などを学術的に検証する。診療や病院内の事務もオンラインで実行できるようにし、業界の働き方改革を目指す。同日に発表した。
順天堂大学と日本IBMが開始するのは「メディカル・メタバース共同研究講座」。2022年〜2024年の約3年をかけて、仮想空間であるメタバースを活用した医療サービスのビジネスモデル構築と、事業のためのエコシステム形成を目指す(図1)。
順天堂大学医学部長・医学研究科長の服部 信孝 氏は、「仮想空間がメンタルに及ぼす影響を上手く使うことで、より良い治療ができるように模索する」と、共同研究の狙いを語る。医療へのメタバースの活用について、日本IBM執行役員の金子 達哉 氏は「両者を組み合わせた事例はあまりなく、国内でも先駆的な試みになる」とする。
共同研究の場として「順天堂バーチャルホスピタル」と呼ぶメタバース(3次元の仮想空間)を設置する。実物の順天堂医院を再現し、(1)患者の満足度の向上と医療従事者の働き方改革、(2)医療の質の向上や新たな治療法の確立、(3)新たな市場の創出の3つの柱で研究を進める。
まずは2022年度内に順天堂バーチャルホスピタルの試作品を構築し、医師や患者、その家族らが仮想空間での”分身”となるアバターを使ってアクセスできるようにする。病院の内外に医療コミュニティを形成することで、患者の満足度を高めると同時に、医療従事者の働き方改革に取り組む。
例えば、医師と患者らが十分な情報を共有したうえで合意するインフォームドコンセントにおいて、患者や家族が入院や治療の内容をメタバース上で体験し知識と理解を深められれば、患者満足度が高まると期待する。
中長期的には、メタバース上でアバターを通じた交流の体験が、現実世界で行動するときへの影響を学術的に検証する。そのうえで、実際の患者が持つメンタルヘルス疾患の改善や治療法の発見に役立てる。
入院患者やリハビリが必要な患者は、身体的・医療的な制限などから外出が難しく、他の患者や家族と十分な交流が図れない。それがメタバース内では、物理的制限がないため、アバターを用いた回遊などにより日常的な情報交換が可能になる。そうした仮想空間での体験が脳に与える影響を調べることで、人との交流が身体に及ぼす効果を検証し、新たな治療法を模索する。
順天堂大の服部氏は、「リアルとバーチャルを行き来することが治療に役立つ可能性がある。メンタルヘルス以外にも、認知症トレーニングや生活習慣病、パーキンソン病の歩行障害といった治療/リハビリにも適用が期待できる」と話す。
医療への研究と並行して、予約/問診/支払いといった業務もメタバース上で実行できるようにし、種々の業務負担の軽減も図りたい考えだ。
メタバース上での経験や活動の記録は、日本IBMが提供する電子カルテなどのヘルスケア基盤と連携し、リアルとバーチャルの行動記録を一元管理する。
患者や家族の行動データなどは、産業横断的なプラットフォームを介し製薬や介護、医療機器など他業種とも共有したい考えだ。メタバースで得られた知見/データを活用した新しいサービスの創出に向けた協業をうながす。
例えば、製薬企業から見れば、患者が自身のメンタルヘルスをポジティブに認識できるようになれば、リアルでの処方薬の服用状況(アドヒアランス)が向上すると考えられる。メタバース上での治験者のマッチングや治験説明なども構想する。
企業/組織名 | 順天堂大学 |
業種 | 医療・健康 |
地域 | 東京都文京区 |
課題 | 病院内での患者とのコミュニケーション不足、入院患者やリハビリが必要な患者は身体的・医療的な制限などから外出が難しく、他の患者や家族との交流やリハビリの機会を持てない |
解決の仕組み | 病院を模したメタバースを構築し、アバターを使って交流すって患者のメンタルヘルスが改善するといった、新たな治療法を研究する |
推進母体/体制 | 順天堂大学、日本IBM |
活用しているデータ | 患者のメタバース上での行動データ、電子カルテデータなど |
採用している製品/サービス/技術 | メタバース上の仮想病院「順天堂バーチャルホスピタル」 |
稼働時期 | 2022年度内(メタバースのプロトタイプの稼働目標) |