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京屋染物店、少人数組織で社員の主体性を育み“越境経営”への変革を推進

「CIO Japan Summit 2026」より、代表取締役の蜂谷 悠介 氏

中村 仁美(ITジャーナリスト)
2026年8月25日

データとAI活用で業務の構造を明確にする

要素3:構造の明確さ

 構造の明確さは、チームの役割や計画、目標が明確になっている状態を指す。京屋染物店では「TOC(Theory of Constraints:制約理論)やMG(マネジメントゲーム)を学ぶ研修を実施し、業務改善が進んだ」(蜂谷氏)という。

 毎年5月に実施しているマネジメントゲーム研修では、シミュレーションゲームを通じて決算書の作成を体験する。この結果「パート従業員に至るまで、損益計算書や貸借対照表、キャッシュフロー計算書などを読み解く力が身に付いた」と蜂谷氏は強調する。

 こうした研修に力を入れるのは「ITを導入してデータを可視化しても、正しい読み方ができなければ正しい努力につながらない」(蜂谷氏)からだ。情報共有ツールとして導入する「kintone」(サイボウズ製)では、蜂谷氏が経営計画の大枠を立案し、現場がより良い実行方法を考える体制を整備した。

 顧客データについても、従来は各サービスと紐付いていなかったが「CRM(Customer Relationship Management:顧客関係管理)システムの導入によって的確なサービス提供につなげている」(蜂谷氏)という(図1)。

図1:CRM(顧客関係管理)システムを中心にしたシステム構成図

 それでも当初は「データやAI(人工知能)技術を活用すればこんな実績が出ると言っても、なかなか響かなかった」と蜂谷氏は明かす。そこで「顧客へのサービス品質がどれだけ向上するか、自分たちの時間がどれだけ生まれるかを軸に活用を進めた」(同)という。

 一例が、POS(Point of Sale:販売時点情報管理)レジの売上データをクラウド連携する際のAI活用だ。1つの取引に10%と8%の消費税が混在する場合、従来はバックオフィスの担当者が手作業で仕分けていた。特に「ゴールデンウィークやお盆の時期は仕分け作業に時間がかかっていた」(蜂谷氏)という。

 この課題を解消するため、自動仕分けのためのAIシステムを構築した。これを機に「社員それぞれが『どんな作業をAIに任せられるか』を自ら考えるようになった」と蜂谷氏は話す。

採用と対話で相互信頼と心理的安全性を築く

要素4:相互信頼

 相互信頼を築く方法として、京屋染物店は「理念採用」を重視する。水槽理論では、水質(組織風土)が悪化すると、水槽内で泳ぐ魚は元気を失う。組織風土を作るのは社員だからこそ「その源である採用の段階で組織風土にマッチする人材を見極めている」(蜂谷氏)とする。

 具体的には、応募者に面接時「理念共感アンケート」と「自分史ワークシート」の提出を求める。理念共感アンケートでは「応募者自身と京屋染物店がそれぞれ大切にしているキーワードを3つずつ挙げてもらい、その理由と共感するポイントを記述してもらう」(蜂谷氏)という。

 一方の自分史ワークシートは、応募者自身がこれまでの人生を振り返り、何に挑戦し、何にワクワクしてきたのかなど、自身がどのように形成されてきたかについて自己理解を深める。採用側にとって蜂谷氏は「応募者の思考や行動パターン、キャリア観を知る手掛かりとなる」という。

要素5:心理的安全性

 心理的安全性は、チームメンバーがリスクを取ることを安全だと感じ、互いに弱い部分をさらけ出せる状態を指す。京屋染物店ではこの状態を担保するため、仲山 進也 氏の著書『今いるメンバーで「大金星」を挙げるチームの法則――「ジャイアントキリング』の流儀」(2012年、講談社)が示すチームの成長ステージを参考に組織の状態を定期的に見極めている(図2)。

図2:グループからチームへと成長する4ステージ

 蜂谷氏自身は組織を第4ステージ(トランスフォーミング:変態期)だと捉えていても、新入社員は第1ステージ(フォーミング:形成期)と答えるかもしれない。その場合「新入社員にとって組織の心理的安全性は十分に確保できていないということになる」(蜂谷氏)という。こうした社員とのコミュニケーション量を増やすことで、心理的安全性を高める工夫を重ねている。

PDSサイクルが現場主導の業務改善を支える

 5要素に加え、京屋染物店が社員の主体的に業務改善に欠かせないと位置付けるのが「PDS(Plan:計画、Do:実行、See:評価)サイクル」の3つのプロセスだ。

 以前、蜂谷氏は「社長やリーダーが計画を立て、実行は現場が担い、結果を受け取って評価するのも社長やリーダー、という形で十分だと考えていた」という。しかし、その進め方では「計画立案を経営層など一部の人が担う限り、現場の社員は『やらされている」と感じやすくなるためうまくいかなかった」(同)

 この壁を取り払うため、蜂谷氏は「PDSサイクルを、現場のメンバー自らが一回しできるスキルと知識を身に付けることが必要だ」との考えに至る。ここから「教育に投資する発想へと転換した」(同)という。

 蜂谷氏が考える教育とは、経営や行動の裏付けとなるデータの読み方だけを指すのではない。「計画・実行・検証を自ら担うための学び全般を指している」(蜂谷氏)という。その教育が浸透した結果、今では「社員それぞれが主体的に仕事を回す組織になった」(同)

 講演の最後に蜂谷氏は「組織を健全に保つ5つの要素を大切にしながら、PDSサイクルを回し、主体性を持って仕事に取り組む社員を育てることで、企業の成長につなげていきたい」と考えを示して締めくくった。