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京屋染物店、少人数組織で社員の主体性を育み“越境経営”への変革を推進
「CIO Japan Summit 2026」より、代表取締役の蜂谷 悠介 氏
繊維業は“斜陽産業”と呼ばれ、担い手企業の多くは人口減少や需要縮小という逆風にさらされている。そんな中、創業100年を超える老舗染物店が祭り用品の受注生産から、自社ブランドや異業種展開へと舵を切り、売り上げを伸ばし続けている。京屋染物店 代表取締役の蜂谷 悠介 氏が「CIO Japan Summit 2026」(主催:マーカス・エバンズ・イベント・ジャパン、2026年5月開催)に登壇し、社員一人ひとりの主体性を育んだ組織づくりのポイントを話した。
「社員数は30人弱と少ない。この人数で越境経営を成功に導くために、社員一人ひとりの主体性を育むことに注力してきた」--。染色縫製業を営む京屋染物店 代表取締役の蜂谷 悠介 氏はこう話す(写真1)。
岩手県一関市にある京屋染物店は1918年創業、100年以上続く老舗の染物店だ。2010年、代表取締役を務めていた蜂谷氏の父が他界し、当時32歳だった悠介氏が4代目として後を継いだ。
当時の主力事業は、祭りで使う半纏(はんてん)や法被(はっぴ)、手ぬぐいなどの受注生産で、売り上げの8割を占めていた。繊維産業は斜陽産業と呼ばれて久しく、しかも一関市の人口減少率も高い。加えて「東日本大震災による自粛ムードや、その後のコロナ禍による全国的な祭りの中止など、主力事業を取り巻く環境は厳しさを増した」(蜂谷氏)という。
それでも京屋染物店は売り上げを伸ばし続け、2021年には「社員の幸せと働きがい、社会への貢献を大切にしている企業」を増やす目的で贈られる「ホワイト企業大賞」を受賞してもいる。
受注生産から自社ブランド開発へと転換
厳しい環境で売り上げを伸ばせた理由を、蜂谷氏は「コロナ禍前前より自社ブランドの開発に力を注いできたからだ」と説明する。
その1つが「縁日」だ。縁日では、衣服や生活道具、小物など、現代の暮らしになじむ道具を企画し、展開する。代表例「マタギもんぺ」は、かつて猟師が愛用していた野良着を現代版にデザインし直したものだ。蜂谷氏は「狩猟に携わっている若手猟師から『僕らが普段から着てかっこいいと思える衣服を一緒に作ってほしい』と頼まれ、プロジェクトを立ち上げた」と経緯を話す。
染物にとどまらず、縁日のブランドラインの1つ「山ノ頂」では、害獣駆除された獣の皮を使った製品も展開する。これらの商品はオンラインに加え、実店舗「里山縁日」でも販売している。里山縁日は、町外れの山あいにある築200年以上の古民家をリノベーションした店舗で、プロダクトの販売のほか、地元食材を扱うカフェを併設し、ワークショップも開催する。
ほかにも、一関市の伝統野菜「矢越カブ」を休耕地を活用して栽培したり、手つかずの里山を整備・開拓する「里山整備サポーターズ」に取り組んだり、食と郷土芸能の祭典「野祭(のまつり)」を毎年11月に開催したりするなど、京屋染物店は染色縫製業に加え「飲食業、観光業、農業を営む企業へと事業領域を広げている」(蜂谷氏)段階だ。
社員の主体性を引き出しながら健全な組織を形成
事業拡大において、主役である社員の主体性を育むうえで重視するのが、健全な組織を支える(1)インパクト、(2)仕事の意味、(3)構造の明確さ、(4)相互信頼、(5)心理的安全性、の5つの要素だ。
要素1:インパクト
インパクトは、社会や環境に影響をもたらす仕事に携わることを指す。実際、京屋染物店では「売り上げや効率だけでなく、地域や社会への効果も含めて商品開発を考えている」(蜂谷氏)という。
岩手県では年間2万5000頭から3万頭ほどの害獣が殺処分の対象となり、その多くは山に放置されているという。山ノ頂は「こうした命を無駄にせず、余すことなくいただくという考えから立ち上げたブランドだ」と蜂谷氏は力を込める。
マタギもんぺでは、商品の背景やコンセプトを商品サイトで丁寧に発信し続けた結果「マタギ発祥の地とされる秋田県阿仁町に足を運ぶ人も現れ、地域との新たな交流が生まれている」(蜂谷氏)という。矢越カブの栽培では「栽培農家が1軒のみとなり、地域の食文化そのものが失われかねない」(同)という危機感が背景にある。「将来的には商品化したい」(同)考えだ。
要素2:仕事の意味
仕事の意味は、自らの仕事に意味を見い出せることを指す。蜂谷氏は、父の急逝で経営の基礎も知らないまま会社を承継し、追い打ちをかけるかのような東日本大震災では自粛ムードから多くのお祭りが中止になった。そのとき蜂谷氏は「私たちがやっている仕事は社会的な価値がないのではないか」と感じたという。
だが、岩手県気仙町にボランティアで訪れた際、町を見渡せる丘の上で避難した仲間を待ち続けている男性と出会い「考えが大きく変わった」と蜂谷氏は振り返る。身の上話をしたところ、その男性は宝物を見せてくれるという。それがボロボロになった半纏だった。男性には「祭りには力がある。だから頑張ってくれ」と背中を叩かれたという。
この言葉を聞いて蜂谷氏は「僕たちの仕事はいろんな人たちの人生に寄り添っている素敵な仕事だ」と気付いた。以来、こうした「パーパスやビジョン、バリューを社内で常に語り続けることにしている」(同)という。
社員にもやりがいを持ってもらうため、数年後の会社での活躍イメージと、プライベートでのハピネス(幸せ)を毎年書いてもらい、社員全員で共有もしている。社員に共有する理由は「社員同士がお互いを応援し合える環境にするためだ」(蜂谷氏)という。
