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サプライチェーンにおける個体管理を強化する「人工物メトリクス」
「IoTセキュリティフォーラム2022」より、産業技術総合研究所の古原 和邦 氏
サプライチェーンやバリューチェーンを強化・効率化するための技術の1つに、モノの物理的特徴を個体管理に活用する「人工物メトリクス」がある。産業技術総合研究所 サイバーフィジカルセキュリティ研究センター(CPSEC)総括研究主幹の古原 和邦氏が、同センターがまとめた『人工物メトリクス技術のガイドライン』を元に、人工物メトリクスを活用するうえでのポイントや注意点を解説した。
「サプライチェーンやバリューチェーンが複雑化するなかで、模倣品や意図しない機能の混入といったリスクが懸念されるようになった。企業にとって、サプライチェーンやバリューチェーンを強化・効率化することの重要性が高まっている」――。産業技術総合研究所のサイバーフィジカルセキュリティ研究センター(CPSEC)で総括研究主幹を務める古原 和邦 氏は、こう指摘する(写真1)。
モノの物理的な特徴を計測して管理する「人工物メトリクス」
サプライチェーン/バリューチェーンの強化策の1つが可視化だ。古原氏によれば「複雑性・不安定性が高いサプライチェーンを可視化すれば、顧客需要の充足率の向上や生産・保管・物流にかかるコストや在庫量の削減などの効果が得られるという調査結果もある」。その可視化のポイントになるのが個体管理の手法である。
個体管理の手法としては、IDやシリアルナンバー、バーコード、二次元コード、RFID(ICタグ)といった管理用のタグを付与する方法が一般的だ。だが古原氏は「課題もある」とする。
具体的には、小さなモノにはタグを付ける場所がない、タグを付ける手間やコストを省きたい、盗難品や転売禁止品などでは意図的にタグが取り外されても流出元や流出経路を特定したい、などである。ほかにも「模倣品が原因で事故が起きた場合、その品が自社製品ではないことを示すフォレンジックへの期待もある」(古原氏)という。
こうした課題に対応する技術の1つに「人工物メトリクス」がある。狭義にはモノの物理的な特徴を計測することを指し、広義には、そうした特徴を活用することを指す。個体管理においては、管理対象になる個体を分析して固有のパターンを把握し、その結果を照合・識別することで個体の管理を可能にする。個々の製品や部品だけでなく、製品群や部品群といった集合に対しても適用できる。
ただ古原氏は、「人工物メトリクスの活用範囲は広いが、そのニーズやユースケースは多様で、状況によって考え方や適用すべき指標、注意点が異なる」とする。そうした指標や注意点を整理したのが、CPSECの『人工物メトリクスを用いた個体管理技術ガイダンス』だ(図1)。CPSECが事務局になり、産官学の有識者とともに作成し、2022年1月に初版を公開した。