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  • 問われるサイバーレジリエンス

工場などのデジタル化が進展しOTサイバーセキュリティは構築から運用の時代に

「重要インフラ&産業サイバーセキュリティコンファレンス」より、KPMGコンサルティング テクノロジーリスクサービス/ディレクターの保坂 範和 氏

伊藤 真美
2024年4月17日

OT(Operational Technology:制御技術)システムの多くが、直接または間接的にインターネットにつながり、リモートアクセスが可能になった今、サイバー攻撃の脅威から守る必要がある。KPMGコンサルティング テクノロジーリスクサービス/ディレクターの保坂 範和 氏が、「重要インフラ&産業サイバーセキュリティコンファレンス(主催:インプレス、重要インフラサイバーセキュリティコンファレンス実行委員会、2024年2月14日〜15日)」に登壇し、OTシステムの現状と課題、強化策などについて解説した。

 「工場のスマートファクトリー化・DX(デジタルトランスフォーメーション)化を検討・推進する企業が増え、サイバーセキュリティは最大のリスクとして考えられている。だが関連するサプライヤーまで含めた対策を打つのは難しい。しかもIT(Information Technology:情報技術)とOTの融合が進み、難しさを増している」――。KPMGコンサルティング テクノロジーリスクサービス/ディレクターの保坂 範和 氏は、こう指摘する(写真1)。同氏は以前、電機メーカーに務めITとOTの両面からセキュリティ施策に携わった経験を持っている。

写真1:KPMGコンサルティング テクノロジーリスクサービス/ディレクター の保坂 範和 氏

OTセキュリティの一番の課題はシステム運用管理

 工場のOTシステムは、製造ラインを制御するネットワークのほか、品質管理や、発電などのユーティリティ、さらには制御ソフトウェアを開発する端末などで構成されている。IT経由せず直接クラウドに接続するケースも増えており、ネットワークを介した攻撃が増えているのが現状だ。

 それだけにOTシステムのセキュリティ対策が必要なのは明白だが、「ITとは、守るものや優先順位、対策が異なる。一番の課題とされるのがシステム運用管理だ」と保坂氏は指摘する。OTシステムを管理する計装部門や設備管理部門に対し、「情報システム部門の知見やリソースを共有・活用するには、OT/ITの融合とセキュリティの運用が重要課題になる」(同)

 だが、「OTにおけるサイバーセキュリティの成熟度はITに比べて低い」(保坂氏)という。KPMGコンサルティングの調査によれば、従業員数501~1000人の組織では、「過去12カ月以内に25件以上のインシデントが発生している」とする企業が40.9%もある(『KPMG制御システムサイバーセキュリティ年次報告書 2022』より)。サプライチェーンを含め保護する必要がある大企業でも、「業務の中断・停止」や「金銭的損失」などの実害が出ている。「医療系を狙ったサイバー攻撃の増加もあり、『負傷』や『人命の損失』も生じている」と保坂氏は指摘する。

 サイバー攻撃による工場の経営リスクとしてKPMGは、(1)C(機密性)、(2)I(完全性)、(3)A(可用性)、(4)H(健康)、(5)S(安全性)、(6)E(環境への影響)の6つを挙げる(図1)。

図1:KPMGが挙げるサイバー攻撃による工場の経営リスク