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  • 工場のレジリエンスを高めるためのセキュリティ対策の実際

スマートファクトリー化が求める工場セキュリティの新常識【第1回】

市川 幸宏、松尾 正克(デロイト トーマツ サイバー)
2024年7月12日

世界経済フォーラム(WEF)は、生産性を高めたスマートファクトリーとして、大手の工場だけではなく、中小の工場も紹介している。だがスマートファクトリーの実現においては、工場現場の責任者やリーダーは、OT(Operational Technology:制御技術)とIT(Information Technology:情報技術)の相互扶助を検討しなければならず、どちらか一方の技術だけではセキュリティの適用が難しい。工場のセキュリティ対策として推奨される項目はあるものの、その対策には陥りがちな課題がある。今回は、スマートファクトリーにおけるセキュリティの課題について解説する。

 2020年前後から製造業のサプライチェーンに影響を与えるリスク要因として、地震などに加えてパンデミックが急浮上した 。日本は2011年3月に東日本大震災を被災し、そこからサプライチェーン対策を試みてきた。具体的には、アジアなどを含めた新しい調達先の確保や事業継続計画(BCP:Business Continuity Plan)の策定などである。

 しかしながら、それらの対策は世界的なパンデミックには、あまり効果がなかった。パンデミックは、自然災害のような局所的被害ではなく、調達先においても同様の被害が及んでいたためである。そうした状況下で製造業に大きな被害を与えたのは、製品のハブになる部品の特定や、その対応などだ。そもそも製品のハブになっている部品を把握できなかったことや、把握後に調達先をいかにスムーズに切り替えられるかが大きな課題になった。

世界では中小企業もスマートファクトリー化で成果を上げている

 アナログの力に頼って対応した企業では大きなロスが発生した。従って現在および、これからの取り組みとしては、アナログではなく、サプライチェーン全体を可視化したうえでの準備や、残されたリソースによる事業継続の想定が重要だ。この課題を解決するための効果的な対策の1つにスマートファクトリーがある(図1)。

図1:現在の製造業が抱える課題の解決策としてのスマートファクトリー

 スマートファクトリーは、サプライチェーンの単なるデジタル化・見える化ではない。調達・契約などの標準化・グローバル化を進め、世界のさまざまな工場からの調達を容易にするための取り組みである。

 また、スマートファクトリー化を図ることで、デジタル化における工場の生産性や環境面でのレジリエンス(耐久・回復)力が高まることを、通称「ダボス会議」(ダボスで開かれる年次総会)で有名な世界経済フォーラム(WEF:World Economic Forum)が明らかにしている。成果を上げているスマートファクトリーはWEFのプログラム「グローバル・ライトハウス・ネットワーク」において“世界の灯台(ライトハウス)”として認定されている。

 ライトハウスに認定されている工場は、いわゆるビックカンパニーだけではない。Forbesの「Global 2000」の圏外にある企業が4割弱を占める(図2)。

図2:世界経済フォーラム(WEF:World Economic Forum)の「グローバル・ライトハウス・ネットワーク」に認定されている企業の規模

 例えば、イタリアの中小企業RoldのCerro Maggiore工場が、その1つ。同工場の従業員規模は250人ながら、デジタル化の取り組みが評価され認定されている。具体的には、デジタル化によって売り上げが7〜8%向上し、設備総合効率(OEE:Overall Equipment Effectiveness)が11%向上したとされる。

 また欧州への製品輸出に必要な「CEマーク」においては「デジタル製品パスポート(DPP:Digital Product Passport)の導入が提案されている。DPPは、製品固有情報の見える化に関する義務を規律する。欧州へ製品を輸出している企業は、これらのデジタル化が急務であることが予想される。