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  • 事業を守るOTセキュリティ〜なぜ(Why)・どう(How)守るべきか

Why(なぜ)の1:OTセキュリティの目的は安心・安全と生産活動の維持・向上にあり【第1回】

藤原 健太(フォーティネットジャパンOTビジネス開発部 担当部長)
2025年1月15日

安全性の確保に向け製造現場ではルールが徹底されている

 製造業の生産活動を維持・向上し現場の安全性を守るために製造現場では、次のようなルールが徹底されています。いずれも、製造現場における秩序と安全を守り、生産活動を安定的に継続するための基本的な枠組みです。

ルール1:5S(整理・整頓・清潔・清掃・躾)

 「5S」は、整理、整頓・清潔・清掃・躾(しつけ)という5つの“S”からなる日本発祥の管理手法であり、安全で効率的な職場環境を作るための基本的な考え方です。

整理 :必要なものと不要なものを分け、不要なものを捨てることにより、スペースを確保し、必要なものをすぐに使えるようにする
整頓 :必要なものを誰でもすぐに取り出せるように整理し、探す時間を減らし、作業効率を高める
清掃 :汚れを取り除き、職場を清潔に保つことで、問題や異常を早期に発見しやすくする
清潔 :整理・整頓・清掃を日常的に実施・維持することで、快適で安全な職場環境を保つ
:ルールや基準を守り、習慣化することで、職場全体で一貫性を持ち、持続可能な改善を実施する

ルール2:三現主義(現地・現物・現実)

 三現主義は、現地・現物・現実を重視する考え方です。問題解決や改善の際には「現場」に赴き、「現物」を見て、「現実」を把握することで、現場の状況を正確に理解し、実践的な改善を可能にします。

現地 :実際の作業現場に出向くことで、机上の空論ではなく、現状を理解する
現物 :実際の製品や装置を確認することで、資料や報告書では分からない実際の問題を発見する
現実 :起きている事実や状況を正確に理解することで、誤解や曖昧さを避け、現場のリアルな問題を正しく理解して改善する

ルール3:KY、ヒヤリハット

 KY(危険予知)とヒヤリハットの目的は、事故やトラブルを未然に防ぎ、安全な作業環境を確保することです。例えば、道を渡る前に「車が来ていないか」を確認するのがKY、実際に渡った時に「車が近づいてきてヒヤリとした」経験がヒヤリハットです。

KY :作業前に潜在的な危険を予測し、安全対策を講じることで、事故やトラブルを未然に防ぐ
ヒヤリハット :事故にはならなかったものの、「ヒヤリ」としたり「ハッ」としたりした危険な出来事を指す。これらの経験を通して小さな事例から学び、大きな事故を防ぐという意味がある

OTセキュリティでは製造業本来のビジネスリスクを低減する

 上記のようなルールによって対応している製造現場の物理的なリスクに対し、情報セキュリティではインシデント(事件や事案)による経済的影響が焦点になるのが一般的です。

 しかしOT領域においては、安全性や環境面を含むビジネスリスクの低減をも意識する必要があります。つまりOTセキュリティは、単なるサイバー脅威への対処ではなく、製造業の本来の目的からの逸脱に直結するリスク低減活動だと認識すべきです(図2)。

図2:OTセキュリティは製造業本来の目的からの逸脱に直結するリスクへの低減活動である

 ビジネスリスクは次のような一般式で考えられます。

  ビジネスリスク = 被害の発生確率(Likelihood)× 事業被害の大きさ(Consequence)

 例えば、発生頻度が低くても甚大な事業被害が想定される重要設備においては、セキュリティ対策の優先順位を高くする必要があります。工場ではアップデートが困難なシステムや機器が多く存在しますが、そうした脆弱性を許容しつつ、代替策を講じるという考え方も必要です。重要なのは、脆弱性そのものではなく、その先に起こり得る事業被害がサイバー要因によって引き起こされる可能性を考慮することです。

 OTセキュリティ対策の本質的な目的は、サイバー要因によって引き起こされる可能性のある、製造業の生産活動の維持向上と安全性確保を阻害するビジネスリスクの低減です。これは、SEQCD(安全・環境・品質・コスト・納期)やBCP(事業継続計画)の観点に基づき、製造業の持続可能な成長と競争力強化を実現するための重要な取り組みです。

 つまりOTセキュリティは、単なるサイバー脅威への備えや脆弱性の検知にとどまらず、経済的影響や、安全性、環境保全を含めた包括的なリスク低減活動として捉える必要があります。製造現場における安全性と効率性を守りながら、ビジネスリスクを低減することが、製造業の持続的発展を支える鍵になるのです。

藤原 健太(ふじはら・けんた)

フォーティネットジャパン OTビジネス開発部 担当部長。現場機器から制御システム、OT領域のデジタル化支援まで幅広く従事し、これまでに訪問したプラント・工場は80拠点を超える。システムエンジニア、営業技術、ビジネス開発、プロジェクトエグゼキューション、アフターセールスなどを経験し、これらの幅広いスキルを活かし、OTセキュリティに関する執筆やメディア出演、イベント講演、社外関連団体での活動など精力的に取り組み業界をリードしている。2022年9月からGUTP+Edgecross合同 工場セキュリティWGメンバー、2024年8月からはJNSA 調査研究部会 OTセキュリティWGメンバー。FS Engineer(TUV Rheinland, #18131/19, Safety Instrumented System)。