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- 事業を守るOTセキュリティ〜なぜ(Why)・どう(How)守るべきか
Why(なぜ)の1:OTセキュリティの目的は安心・安全と生産活動の維持・向上にあり【第1回】
OT(Operational Technology:制御技術)セキュリティの必要性が議論されて久しい。だが、なかなか上手く進んでいないのが実状だ。第1回では、製造業にとってOTセキュリティの目的が、その実現そのものではなく、安心・安全と生産活動の維持・向上であることに着目し、対策をどのように進めるべきかを解説する。
工場などOT(Operational Technology:制御技術)領域におけるセキュリティ対策が大きな注目を集めています。工場のDX(デジタルトランスフォーメーション)をはじめとするデジタル化や、脅威の進化、法規制対応といったキーワードが頻繁に取り上げられています。
例えば、工場のDXは既存ビジネスの変革を通じた収益の向上やビジネスの発展を目指していますし、デジタル化は業務の効率化や自動化を目的とした取り組みです。脅威の進化や脆弱性への対応は、あくまで脅威の入口に対する予防策としては重要ですが、OT領域では決してそれだけで対策が完結するものではありません。そして法規制対応は、OTセキュリティ対策について一定水準のリスク低減を義務化することで、業界全体を守ることが目的です。
しかし、これらキーワードのそれぞれがOTセキュリティ対策の目的そのものになるわけではありません。では、OTセキュリティ、特に製造業におけるOTセキュリティの本当の目的は何でしょうか。
製造業の事業目的は収益であり安心・安全の確保が不可欠
まず製造業における事業目的は、製品を製造・販売して収益を上げることであり、それを高い品質で継続的に実現しなければなりません。つまり製造業の大きな目標は、生産活動を安定的に維持し、さらに向上させることです。
特に製造業においては「安全性」に対する意識が重要になります。従業員や消費者、地域社会、そして環境の全てに配慮し、生産活動を安心して継続できる状態を保つ必要があるからです。安全性の確保は製造業における最優先事項であり、生産活動の基盤です。
生産活動においては、機械やシステムを活用して自動化を進める企業が増えています。一方で、業界や製品によっては、人手による制御や監視が重要な役割を果たす場合も少なくありません。不具合が発生した際には、システムや機械が問題を検知するケースもありますが、整備や保守の場面では人の判断が求められることが多々あります。システムや機械の誤作動、突発的なプロセス変動による爆発事故や火災などにより安全が脅かされるリスクも存在します(図1)。
それだけに工場では、安全性を担保するためにハードウェア的、ソフトウェア的、そして人的なストッパーが備えられています。例えば、緊急遮断弁や圧力解放弁などの安全装置、インターロック回路や安全計装システム、そして安全を守るためのルールなどです。