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- サプライチェーンにおけるサイバーリスク管理の3ステップ
ステップ2:サプライチェーン全体のリスクを継続的に評価しインシデントに対応する
リスクを継続的に評価するためのフレームワークを導入する
サプライチェーンを含めたリスクが重大化・複雑化する中、企業の信頼性やレジリエンスを維持・強化する観点からも今後は、明確に定義されたサードパーティリスク管理(TPRM:Third Party Risk Management)が従来に増して重要になります。
TPRMは、外部ベンダーやサプライヤーに起因するリスクを体系的に特定・評価・管理するための構造化されたプロセスです。単なるベンダー管理にとどまらず、組織をサイバー攻撃から防御するための総合的な対策でもあります。
プロセスには、リスクの特定、サードパーティのリスク評価、リスク軽減策の適用、サードパーティの継続的な監視が含まれます。これらにより、サードパーティに起因する侵害のリスクを最小限に抑え、重要なベンダーのデータとシステムを保護します。
TPRMを確実に実行することで組織は、外部ベンダーからのリスクを最小限に抑えながら、重要なパートナーとの関係を安全かつ効果的に維持できます。そのためには“単発の評価”ではなく“継続的に監視・見直す仕組み”を通じて、継続的にサードパーティとの関係に潜むリスクを把握できなければなりません。
サプライチェーンリスクの監視においては、以下の取り組みが重要です。
●継続的なリスク評価体制の整備 :初期契約時だけでなく、パートナーの状況変化に応じてリスク評価を継続的に実施する
●インシデント対応プロトコルの整備 :サードパーティに起因するインシデントにも迅速に対応できるよう、報告義務・連絡フロー・責任分担などを事前に明確にする
●クロスファンクショナルな連携体制 :情報システム部門とリスク管理部門だけでなく、法務・調達・事業部門なども巻き込んだ連携体制を構築する
こうした実践を通じて、企業はリスクの発見から対応までのスピードと精度を高め、より堅牢で透明性の高いサプライチェーン管理を実現できます。さらに継続的なリスクモニタリングは、組織のレジリエンス強化やステークホルダーからの信頼獲得にも直結します。
インシデントに迅速に対応するための体制を整備する
先に紹介したCDK Globalの事例にもみられるように、サプライチェーンの一部を構成するパートナー企業が攻撃を受けた際に、その影響が元請け企業や他の取引先にまで波及する“連鎖的な被害”が深刻化しています。こうしたリスクを最小限に抑えるためには、インシデントが発生した際に迅速かつ的確に対応できる体制の整備が不可欠です。具体的には以下の要素を明確に定義し、実効性のあるプロトコルとして文書化する必要があります。
●早期検知・アラート発出の仕組み整備 :サードパーティのセキュリティ状況を継続的にモニタリングし、異常を検知した場合には即時アラートを発信する
●初動対応手順の標準化 :インシデント発生時には、影響範囲の特定、関係部門への連絡、被害の拡大防止など、段階的かつ迅速な初動対応が求められるため、初動フローの標準化とフロー定着に向けた訓練を実施する
●ベンダーとの連携体制 :サードパーティが攻撃を受けた場合、即座に報告を受け、共有された情報をもとに自社内でも対応を開始できる体制を整えておく必要がある。事前の合意事項として、インシデント報告の義務や対応時の情報開示範囲などを契約書に明記する
●バックアップと復旧手順の整備 :自社あるいは取引先が攻撃により業務継続が困難になった場合に備え、バックアップデータや代替手段の確保、事業継続計画(BCP:Business Continuity Plan)の更新を含めた包括的な復旧手順を策定する
●組織全体での対応能力の強化 :インシデント対応はセキュリティ部門だけの責任ではなく、法務、経営企画、広報、調達、そして各事業部門など、組織全体が連携して対応にあたる必要がある。特に、被害が顧客や取引先に波及した場合は、信頼回復のための説明責任も発生するだけに、透明性のある情報開示と再発防止策を提示する。
重要なパートナーに対しては、定期的なセキュリティ訓練や、インシデント発生時のシミュレーション(テーブルトップ演習)を共同で実施する。訓練やシミュレーションを通じて、各組織間の役割分担や連絡体制の弱点を洗い出し、より現実的な対応能力の向上を図る
●情報共有のフレームワークの活用 :インシデント対応能力を高めるうえで、外部との情報共有を図る。国内外のISAC(Information Sharing and Analysis Center)や政府のサイバー対策機関、業界団体と連携し、脅威インテリジェンスやベストプラクティスを常にアップデートすることで、未知の攻撃や新たな手法に備える。
情報共有のフレームワークは、単に被害事例を共有する場にとどまらず、リスクを前提とした設計やレジリエンス強化を“学ぶ場”とする。情報の収集だけでなく、積極的な参加と提供を通じてエコシステム全体のセキュリティレベルを底上げする
リスク評価とインシデント対応を企業文化としての定着を図る
ここまで解説してきたように、サプライチェーンにおけるサイバーリスクは日々進化し、攻撃の手法も多様化しています。こうした環境下では、単発のリスク評価では十分とは言えず、継続的なモニタリングを通じて、変化する脅威に対応する体制の構築が不可欠です。
特にTPRMを導入することで、取引先や外部パートナーのセキュリティ状況を定期的に可視化・分析し、リスクを早期に特定して迅速な対応につなげることが可能になります。これは、企業のレジリエンスを強化するうえでの基盤になります。
インシデント発生時には技術対応に加え、法務、調達、広報などの関係部門が連携し、契約整備やBCP、情報開示を含む包括的な対応体制を整える必要があります。加えて、情報共有や定期的な訓練・演習を通じて危機対応能力を高め、備えと即応力を企業文化として根付かせることが、信頼性と競争力の向上に直結します。
こうした継続的なリスク評価と迅速な対応を可能にする仕組みは、全社で取り組むべき経営戦略の一部として組み込むべきです。
藤本 大(ふじもと・だい)
SecurityScorecard日本法人 代表取締役社長。1996年、日本電信電話(NTT)に入社、東日本電信電話(NTT東日本)、NTTコミュニケーションズで法人営業に従事。 製造業、サービス業、金融業などの大手日本企業や外資企業を担当し、ネットワークサービスに加え、さまざまセキュリティサービスを提供する。2017年、ファイア・アイに入社、パートナー営業部長として主に大手通信事業者とのパートナービジネスの拡大に貢献。2020年7月1日にSecurityScorecardに入社し、2021年6月24日より現職。1971年長崎県長崎市生まれ。青山学院大学国際政治経済学部卒業。