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- スマートモビリティ社会を支えるテクノロジーの現在と未来
日本の自動運転の夜明け、クルマの自動化から交通社会の知能化へ【第1回】
「クルマの自動化」から「交通社会の知能化」へ
こうした社会を実現するには、1つの技術だけでは足りない。スマートモビリティイニシアティブでは、車両、インフラ、デジタル、社会制度という4つのレイヤーが連携することが重要だと考えている(図3)。
従来の自動運転研究は、車両に搭載されたカメラ、LiDAR(Light Detection And Ranging)、レーダーなどを使って周囲を認識し、AI技術で判断して車両を制御する方向で発展してきた。このアプローチは今後も重要である。しかし、車両から見えない死角、悪天候、通信環境、複雑な交差点、工事や事故など、クルマ単独の知能だけでは解決が難しい状況は残る。
そこで、道路インフラのセンサーやV2X(Vehicle to Everything)通信、クラウド/エッジコンピューティング、AI、デジタルツインなどを組み合わせ、クルマが社会側の知能を利用できる環境を作る必要がある。さらに、技術が実現できるだけでは社会実装には至らない。道路交通制度、責任分担、保険、標準化、事業モデルなども一体として設計しなければならない。
クルマだけが周囲を見て判断するのではなく、道路やインフラが交通参加者を見守り、通信が必要な情報をつなぎ、AIが状況を理解して未来を予測し、その結果をモビリティへフィードバックする。そして制度やサービスが、それを社会の仕組みとして支える。個々のクルマの知能を、交通社会全体の知能によって拡張するのである。
つまり、私たちが目指しているのは「クルマの自動化」だけではない。社会全体の協調によって初めて、安全で自由で持続可能なモビリティを広く提供できると考えている。
2028年度を「日本の自動運転の夜明け」に
AI、通信、センシング、インフラ協調など、自動運転を支える技術は急速に進化している。一方で、優れた技術が存在することと、それが社会の日常として利用されることの間には大きな距離がある。
スマートモビリティイニシアティブでは、2025年から2028年を「社会実装への転換期」と位置付けている。個別の技術実証を重ねる段階から、複数の技術、事業者、自治体、制度を結び付け、社会の中で継続的に使える仕組みへ転換していく期間である。
そして私たちは、2028年度に「日本の自動運転の夜明け」を迎えることを1つの目標としている。ここでいう“夜明け”は、街中を自動運転車が走り始めるという意味だけではない。車両と社会側のさまざまな仕組みが協調し、人を中心として交通システム全体が知能化し始める。その転換点を、私たちは「自動運転の夜明け」と呼びたい。
夜明けは完成を意味しない。むしろ、新しい時代の始まりである。2028年度を境に、自動運転が一部の実証実験や限定されたサービスから、私たちの日々の暮らしを支えるスマートモビリティへと成長していくことを期待している。
分野を越えた連携にこそ可能性と課題がある
こうした問題意識から2026年3月19日、第12回超スマート社会推進フォーラム「日本の自動運転の夜明け〜自動運転社会の実現に向けた挑戦〜」を東京科学大学大岡山キャンパスで開催した。
このフォーラムの特徴は、自動運転車そのものの技術だけを議論した訳ではなく、道路行政や自治体による地域交通DX、自動運転バスや幹線物流・大型車両、知能化モビリティ、レベル4社会実装を支える通信と路車協調、インフラ維持管理、自動運転に伴うリスクと保険、そしてリアルタイム・デジタルツインまで、交通社会を構成する多様な分野の専門家が一堂に会して議論した点にある。
なぜ、自動運転をテーマとするフォーラムに、これほど多様な分野が必要なのか。その答えが、本稿で述べてきた「クルマの自動化から、交通社会の知能化へ」という考え方にある。
1台のクルマを高度化するだけなら、車両技術の専門家だけで議論できるかもしれない。しかし、自動運転を社会の日常にするためには、道路、自治体、物流、公共交通、通信、インフラ、保険、制度など、多様なプレーヤーが同じ未来像を共有し、それぞれの技術と役割をつなげなければならない。
フォーラムでは、それぞれの分野で社会実装が着実に進んでいる一方、分野を越えた連携にこそ今後の大きな可能性と課題があることが見えてきた。一日のフォーラムで扱うには、あまりにも多くの重要な論点があった。
個別の技術を我々の暮らしにどうつなげるかを考えたい
本連載では、フォーラムの講演者を中心に、スマートモビリティと自動運転の未来を異なる視点から考えていく。道路を整備する立場から見える未来と、自動運転サービスを提供する立場から見える未来は同じではない。自治体、物流、通信、インフラ、保険のそれぞれにも、異なる課題と可能性がある。
各分野の第一線で社会実装に取り組む方々に、それぞれの視点から「日本の自動運転の夜明け」を論じていただくとともに、私の短いコメントを添えながら、それぞれの議論がスマートモビリティ全体の中で、どのようにつながるのかを考えていく。
クルマ、インフラ、通信、AI、デジタル、社会制度が連携する交通社会は、どのように実現できるのか。個別の自動運転技術を、どのように人々の自由、安全、持続可能な暮らしへとつなげていくのか。連載を通して、読者の皆さんとともに、その答えを探していきたい。
日本の自動運転の「夜明け」は、すでに始まりつつある。次に必要なのは、その光を1台のクルマの中だけにとどめず、交通社会全体へと広げていくことである。
阪口 啓(さかぐち・けい)
東京科学大学 プログラムディレクター(VI-ILS)、超スマート社会卓越教育院長、工学院・電気電子系(教授)。2008年東京工業大学(現東京科学大学)大学院理工学研究科 准教授。その後、大阪大学 大学院工学研究科 准教授、独フラウンホーファー・ハインリッヒ・ヘルツ通信技術研究所 研究主幹等を経て、201年東京工業大学 工学院 教授に就任。2024年から東京科学大学・副学長。2026年から同大学・プログラムディレクター(VI-ILS)。

