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日本の自動運転の夜明け、クルマの自動化から交通社会の知能化へ【第1回】

阪口 啓(東京科学大学 プログラムディレクター(VI-ILS)・工学院 教授)
2026年10月13日

自動運転をめぐる議論が、新たな段階に入りつつある。日本の社会課題を考えると、道路、通信、デジタル空間、社会制度までを含めた交通社会そのものを知能化していく必要がある。本連載では、東京科学大学の超スマート社会推進コンソーシアムにおけるスマートモビリティイニシアティブの取り組みを基に、2028年度に目指す「日本の自動運転の夜明け」と、その先にあるスマートモビリティ社会について考えていく。今回は、コンソーシアムおよびイニシアティブの問題意識と目指している社会の姿を説明する。

 日本では今、少子高齢化による地域交通の維持困難、ドライバー不足による物流負荷の増大、そして依然として残る交通事故リスクなど、移動を取り巻く課題が顕在化している。これらは自動車産業だけの課題ではない。通院や買い物ができること、必要な物資が届くこと、安全に通学・通勤できることなど、私たちの生活基盤そのものに関わる問題である。

社会課題から始まった「超スマート社会」への挑戦

 そうした問題を背景に東京科学大学は2018年、「超スマート社会(Society 5.0)」をけん引する人材を育成するために、超スマート社会推進コンソーシアムを設立する(図1)。同コンソーシアムは2019年、「超スマート社会推進事業1.0」を立ち上げ、文部科学省の「卓越大学院プログラム」の支援を受け、2020年度より人材育成を本格的に開始した。

図1:超スマート社会推進コンソーシアムの歩み(2018年〜2026年)

 その対象は、スマートモビリティ、量子科学、ロボティクス、人工知能をはじめ、ワークプレース、インフラメンテナンス、農業、ビルディング、オーシャン、ヘルスケアなどへと広がっている。

 教育と研究を一体として進めるため、東京科学大学のキャンパス内外に実社会と接続した「オープンイノベーションフィールド」を構築している。そこでは、学生と企業および公的機関が研究チームを構成し、産官学の連携による研究開発や社会実証を進めてきた。コンソーシアム参加機関も設立当初から着実に増加し、2026年には60を超える企業・機関が参画する規模へと成長した。

 重要なのは、単に教育研究の対象分野や参加機関を増やしてきたことではない。人材育成と研究開発、さらには社会実装を一体化し、大学と企業・公的機関が同じフィールドで未来社会を共創する仕組みを構築してきたことにある。

 そして2025年度からは、これまでの人材育成と産官学連携を基盤に「超スマート社会推進事業2.0」へと発展させ、その重点を“新産業創生とグローバル化”に拡張した。教育・研究・社会実装を一体的に進める取り組みは、東京科学大学が描く将来構想にもつながり、国際卓越研究大学への応募・採択、そして新たな未来社会像の構築へと発展している。

国際卓越研究大学が描く「Innovative-Life Society」の基盤に

 超スマート社会推進コンソーシアムによる先進的な取り組みは、東京科学大学が国際卓越研究大学として描く将来ビジョンとも密接につながっている。大学はVisionary Initiativeの1つとして「Innovative-Life Society」を掲げ「誰もが年齢や場所の制約を受けず、安心して生き生きと生活できる社会」の実現を目指している。

 そこでは、AI・ロボットと共創する未来産業・医療・福祉、食料の安定供給と健康で豊かな食文化、健康・安心・快適な未来都市、そして次世代ヘルスケアなど、一見すると異なるテーマを“人の生活”を中心に統合している(図2)。

図2:Innovative-Life Society(VI-ILS)が掲げるビジョン

 スマートモビリティは、このビジョンを支える重要な基盤である。移動できることは、単に「A地点からB地点へ到達できる」という機能ではない。自由に働くこと、学ぶこと、人に会うこと、医療を受けること、地域で暮らし続けることを可能にする。すなわちモビリティは、人々の生活の自由度そのものを支える社会インフラだ。

 だからこそ私たちは、自動運転を「クルマを自動化する技術」としてだけでは捉えてはいない。これまで自動運転というと、センサーやAIを搭載したクルマが、人に代わって認知・判断・操作する「クルマの自動化」が中心に語られてきた。私たちは自動運転を入り口に「人の暮らしを支えるモビリティ全体をどのように進化させるか」を考えている。

「人」を中心に3つの社会的価値の実現を目指す

 スマートモビリティイニシアティブのビジョンの中心にあるのは「人」である。そして、目指す社会的価値を大きく3つの柱として整理している。

第1の柱=Freedom(自由) :年齢や身体的な状況、住んでいる地域などにかかわらず、誰もが行きたい場所へ、自分らしく移動できる社会を目指す
第2の柱=Safety(安全) :AIやセンシング、通信、インフラ協調などの技術によってヒューマンエラーを限りなく減らし、安全と安心が特別なサービスではなく、社会の「標準装備」となることを目指す
第3の柱=Sustainability(持続可能性) :モビリティを単なる移動手段ではなく、地域や産業を活性化するエンジンとして捉え、都市と地域が連携しながら新しい価値を生み出し続ける社会を目指す

 その先には、寝室での移乗支援、自宅敷地内の移動、町内でのロボットや小型モビリティの活用、公共交通、自動車による都市間移動まで、生活圏全体をシームレスにつなぐ「Life-Space Mobility」という考え方がある。人がモビリティに合わせるのではなく、人の生活に合わせて最適な移動手段がつながっていく社会である。