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  • 社会の成長を止めないIoTセキュリティの姿

IoT機器の「セキュアデータプラットフォーム」でスマートモビリティ社会を支える

「IoTセキュリティフォーラム2023」より、産業技術総合研究所の田中 良夫 氏

阿部 欽一
2023年11月13日

温室効果ガス(GHG)の排出抑制は大きな社会課題の1つである。日本政府は「2050年カーボンニュートラル」を宣言し、2050年までにCO2(二酸化炭素)排出量の実質ゼロを目指す。国内のCO2排出量の16%を占めるのが自動車だ。産業技術総合研究所(産総研) 情報・人間工学領域 領域長の田中 良夫 氏が、「第8回IoTセキュリティフォーラム2023」(主催:横浜国立大学先端科学高等研究院、2023年9月6日、7日)に登壇し、自動車分野でのゼロカーボンに向けた「セキュアデータプラットフォーム」の研究・開発状況を紹介した。

 「日本は自動車の電動化が遅れており充電インフラも十分ではない。自動車のCO2(二酸化炭素)排出量のうち40%が商用車によるものだが、商用車は特に電動化が遅れている。充電インフラと電動車の航続距離の短さを考慮した運行管理手法も確立されていない」――。産業技術総合研究所(産総研) 情報・人間工学領域 領域長の田中 良夫 氏(写真1)は、こう指摘する。

 「電動車のエネルギーマネジメントと運行管理を一体的に行うことが、経済活動と社会全体のエネルギー利用の最適化の両立につながると考えられる。だが、この点に関して世界的に実証事例がないのが現状だ」とも語る。

写真1:産業技術総合研究所(産総研)情報・人間工学領域 領域長の田中 良夫 氏

電動車の運用を最適化するためのシミュレーション技術を研究開発

 こうした問題意識から、産総研が「NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)グリーンイノベーション基金事業」として研究・開発に取り組むのが、電動車両のエネルギーマネジメントと運行管理、および充電・充填インフラの最適配置などをシミュレーションするための仕組みである。社会全体と個別事業者のそれぞれがエネルギー利用や運行管理などを最適化できる「スマートモビリティ社会の構築」が目標だ(図1)。

図1:「スマートモビリティ社会の構築」事業の全体像

 NEDOグリーンイノベーション基金事業は大きく、委託事業と助成事業に分かれる。委託事業では、エネルギーマネジメントと運行管理の全体最適化のためのデータ解析や運行管理データの管理・分析・連携基盤を研究開発し、その成果を助成事業に還元する。それを受けて助成事業では、物流・人流事業などに電動車を導入し、そこから得られるデータを収集。その成果を社会に還元する。

 委託事業の対象は「エネルギー利用・運行管理・GHG排出量削減等の社会全体での最適化に関するシミュレーションシステムの構築」だ。大きく(1)エネルギーマネジメント・運行管理シミュレーター、(2)運行管理データの収集・連携基盤、(3)シミュレーションに必要な地図・電力データベースの3つの研究開発テーマを掲げる。

 エネルギーマネジメント・運行管理シミュレーターの研究開発では、「例えば多目的最適化の手法を使って、時間やGHG排出量などのパラメーターを視覚的に確認しながら、事業ポリシーに照らして優先順位を付け、最適な選択肢が選べるようにシミュレーションできる環境の構築を目指す」(田中氏)

 運行管理データの収集・連携基盤の研究開発では、運輸事業者や充電インフラ事業者から提供される運行情報や電池などに関するデータを安全に管理し、円滑に連携できるよう「データの機密性に応じ、セキュリティと利便性のバランスを取ったデータプラットフォーム、すなわち『セキュアデータプラットフォーム』を開発する」(同)

 シミュレーションに必要な地図・電力データベースとしては、「車載カメラによる変化点の検出など、車両データを用いて局所地図や交通データを生成・更新する技術の開発に取り組んでいる」と田中氏は説明する。