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デジタル時代の顧客ID管理は“プライバシー・ファースト”に、信頼関係が前提

米アカマイのCTO(最高技術責任)ジョン・サマーズ(John Summers)氏

志度 昌宏(DIGITAL X 編集長)
2020年6月23日

個々の機能の優劣よりも統一のプラットフォームが重要に

 加えて、単一プラットフォームであることも欠かせない。企業内には、さまざまなシステムが構築され、データのサイロ化が起こっているのが実態だ。データ分析においては、このサイロ化を防止していかなければならない。

図1:「Akamai Identity Cloud」のリファレンスアーキテクチャー

 最後のPerformanceには、テクニカルな性能とビジネスへの貢献という2つの側面がある。テクニカルな性能は、拡張性や応答性だが、ここは当社のCDN(コンテンツデリバリーネットワーク)のアーキテクチャーや実績が、顧客ID管理でも有効なことは言うまでもないだろう。

 ビジネス面での貢献の一例としては、PrivacyやProtectionとして説明した機能などに加え、企業が持つCRM(顧客関係管理)システムなど外部システムと連携した顧客との関係を企業全体で管理できることがある。売り上げや顧客体験の向上につなげられる。

 これらの仕組みを自社開発するというアプローチもある。だが、企業が各種クラウドサービスを多用しているように、IDaaS(ID as a Service)と同様の機能を各社が開発・運用することは、コスト面でもサービスの早期実現という面でも難しいはずだ。

 たとえば最近のデジタルビジネスでは、各社のサービスへの認証に、FacebookやLINE、Wechatなどの既存IDを利用する「ソーシャルログイン」の仕組みが重要になってきている。新規顧客獲得のハードルを下げるからだが、この機能を各社が独自開発することにメリットはあるのだろうか。

 Akamai Identity Cloudが提供する個々の機能は、セキュリティの基本だったり、各社がすでに提供したりしているなど目新しさはないかもしれない。だが、これらが単一プラットフォーム上でまとまって提供されていることが、使い勝手を高める。企業の使い勝手が良ければ、結果的に最終顧客に対し安心なサービスを提供でき、それが信頼につながっていく。

――顧客との関係は、ますます重要になるだろう。一方で、デジタル化の流れでは、IoT(Internet of Things:モノのインターネット)に代表されるようにモノも顧客に位置付けられる。

 IoTなどモノとの接続はすでに始まっている。一例を挙げよう。欧州の家電メーカーが子供向けに販売するIoT歯ブラシだ。

 この子供向けIoT歯ブラシでは、子供がハミガキを続けられるように、スマホアプリと連携し、ゲームに挑戦する形で歯を磨くほか、それが毎晩実施できたり、1週間続いたりするとポイントが得られるようになっている。

 その結果は子供が見るだけでなく、親も確認したいだろう。そのため、このIoT歯ブラシでは、製品のIDと、子供と父親、母親などのIDを紐付けて管理している。さらには、たとえば父親が使っている他の製品のIDも紐づけの対象になっている。

 このようにIoTでは、モノのIDを管理するだけでなく、その所有者や関係者などのIDも関連付けて管理することになる。結果として、ID管理に階層構造が生まれるなど複雑にもなっていく。こうしたID管理の構造を理解していくことが、新しいビジネスプロセスを生み出すためには不可欠だ。

 加えてモノのID管理は、人の管理以上に対象数が増える。数の増大にどう対応するのか、システムの拡張性に対する考え方も変えなければならない。ただ、この点に関しても、AkamaiのCDNのアーキテクチャーが対応可能なことは明らかだろう。