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生成AI時代に向け全社の非構造化データをクラウドストレージで一元管理

アサヒグループ 執行役員 DX統括部 部長 山川 知一 氏

齋藤 公二(インサイト)
2025年2月25日

Boxに移行した全社の非構造化データは200TB超

 データ活用に向けた意識を変える狙いもあり、社内文書などの非構造化データをオンラインストレージの「Box」に集約することを決めた(図2)。個人が作成・利用しているデータや部門で共有しているデータなど全てを対象に2022年に移行プロジェクトを始動し、2024年春には全データの移行を終えた。

図2:アサヒグループが全社非構造化データをBoxに集約した狙い

 データ容量は200テラバイトを超えている。移行時にはデータの削除も依頼し、かなり減らしたものの、日々文書は作成されるので容量は増えている。国内事業に携わる約1万7000人の従業員のうち約1万3000人がBoxを利用している。

 Boxにデータを集約できたことで、アクセス権の適切な管理など全社でのデータ管理の形が整備できた。そこでは新しいテクノロジーを試したり、データを使った新しい取り組みが実施したりが容易になると期待している。

 一般にITプロジェクトでは、PoC(Proof of Concept:概念実証)までは簡単に実施できても、実際の業務に即した形で試していくことが難しい場合が多い。Box環境を利用すれば、非構造化データを対象にした新しい取り組みが簡単に実施できる。具体的にはこれからだが、そのための仕組みができたことは大きい。

 Boxは単にファイルを置くための場所ではなく、メタデータなどを使えばデーを使い倒すことができる。その環境をスケールさせるのも容易だ。そこから非構造化データもしっかり管理し、資産として活用しようという思想が生まれている。

 非構造化データの中には、社員がもつ暗黙知が埋もれている。ただ、文書のままでは、そうした知見は体系化されておらず他の社員は利用できない。だが、Boxでメタデータなどを使えば、そうした暗黙知を大きなシステムを構えることなく引き出せると考えている。

 アサヒグループには新しいことにチャレンジするという文化がある。例えば、新商品の投入では、マーケティング施策を練りキャンペーンを打つなど、商品特性にあわせた施策を日々トライしていく。そのために企画書などを多数作成している。

 これまでなら、過去の取り組みを振り返るために企画書などの資料を人づてにもらったり聞いたりするしかなく、自分が知っている範囲内の情報に限られる。Box上で、プロジェクトを成功に導けた企画書などを抽出できれば、各種施策の成功率を高められるはずだ。そうしたプロセスまでを整備し全社に広げることで、新しいアイデアをもっと創出し実行できるようにしたい。

「Box + Copilot」で生成AIに慣れることを優先

――Boxは生成AI(人工知能)/AI技術の取り組みを加速させている。生成AIは非構造化データの活用にも有効だが、利用計画は。

 まずプロンプトを使う生成AI技術に慣れるために、Boxと「Microsoft Copilot」を中心とした利用を始めている。希望部署にCopilotのアカウントを割り当てている。特定の領域を定めるのではなく、広く全体で使って慣れたうえで、よりプロセスに特化した生成AIを使うという段階的な導入を進めていく。

 一方で、新規ビジネスや研究開発に取り組む部署では、生成AIの先進的な取り組みへのチャレンジを始めている。全社の底上げをDX統轄部が、尖った活用を研究開発部門が推進するという分担だ。

 ただプロンプトを使って求める回答を得るという使い方は、まだハードルが高い。やはり、業務アプリケーションなどに組み込まれ、プロンプトを意識せずに利用できるほうが良い。AIエージェントが、フロントエンドではなくバックエンドに周り、業務処理を自動で実行したりメタデータを使って非構造化データの項目整理やリスト化したりなどだ。

 DX統轄部でも生成AIを利用している。システム開発では、要件定義やテストスクリプトなど、さまざまな文書を作成する。それらを資産として活用できるようにしたい。何かトラブルがあった際に、文書には、どう記載されていたのかを効率的に調べるにも役立つだろう。

 経営会議に提出する資料では、Boxの翻訳や要約機能が役立っている。会議資料はBox上に用意しており、必要に応じて専門的なIT用語を翻訳したり、提案内容のメリットや効果などを要約したりしている。他のファイルを組み合わせて、これまでの取り組み経緯を確認することも容易だ。プロジェクトには紆余曲折があり、従来の振り返りが長くなりがちだが、その時間を短縮できている。

 IT領域での生成AIの活用では、プログラムの書き換えや生成が話題になっているが、システムの構築・運用はプログラムができれば終わりというわけではない。まずは種々の関連文書など自らの業務改善につながる領域での活用を進めたい。

AI技術を意識したコンテンツの循環が大事に

 Boxへの集約で非構造化データの管理は大きく変わっていく。まずサイロ化や属人化が解消され、情報の共有を進め社内知見が活用しやすくなる。ナレッジや経験を生かした取り組みを組織として継続できる。

 管理そのものの効率も高まった。以前はファイルサイズの把握だけでもたいへんだった。それが今は、ファイルの全体像やアクセス権、ログなどもすぐに把握できる。全てが手元にある感覚だ。

 これらによりPoCなどに取り組みやすくなる。成果や効果の追跡により、上手くいかないときの中断や変更を、生産本部から営業本部までが連携して判断できるようになる。

 今はまだ「この情報を後で使う」という意識があまりなく“作ったら終わり”になっている。非構造化データが自動で整理され、簡単に利用できるようになれば、意識してファイルを作るようになるはずだ。AI技術の存在を意識してコンテンツを作成し、それをAI技術で活用していくという循環が大事になる。