- Interview
- 製造
グローバル市場で勝ち抜くために国内事業体質をデジタル化で抜本的に変える
日本製鉄 執行役員 デジタル改革推進部長・情報システム部長 星野 毅夫 氏
- 提供:
- 日鉄ソリューションズ
日本製鉄が事業のグローバル展開を強化している。そのためのDX(デジタルトランスフォーメーション)戦略を強力に推し進め、業務プロセスの刷新や、生産性と意思決定速度の大幅な向上、課題解決力の強化を図る。デジタル改革推進部長であり情報システム部長でもある執行役員 星野 毅夫 氏に、日本製鉄におけるDX戦略の位置付けや具体的な取り組み、今後の方向性などを聞いた。
(なお星野氏は2025年4月1日付けで日鉄ソリューションズ(NSSOL)上席執行役員に就く)
――米USスチールへの提案などグローバル展開を強化しています。製鉄業界は今、どのような経営環境にあるか。
国内市場は、少子高齢化に伴う人口減少を背景に、鉄鋼市場の拡大は望みにくく、成熟産業だと捉えられがちです。しかしグローバルにみれば、新興諸国の経済成長を背景に、今後も大きな成長が期待されています。
そもそも鉄は、あらゆる産業に欠かせない素材です。鉄の硬さや、しなやかさといった特性は、炭素や金属などの含有量によって変わり、新しい用途での利用や市場の拡大など、大きなポテンシャルを秘めています。地球温暖化対策としての脱炭素の流れから需要が高まっているEV(電気自動車)用モーターや変圧器などに向けた電磁鋼板は、その一例です。そうした鉄の特性を引き出すには技術力が問われ、その技術力の高さが当社の強みです。加工精度や電力効率で世界トップレベルにあり、グローバルに当社の技術力が期待されているのです。
そこで力を入れているのが、中長期経営計画にも示している、国内製鉄事業を中核としたグローバル展開です。既にタイを中心とした東南アジア圏へのグローバル展開が進んでいますが、インドにも欧州アルセロール・ミッタルとの合弁で製造拠点を配置しました。
こうしたグローバル化を加速するに当たり、国内製鉄事業の抜本的な体質強化を図るために取り組んでいるのがデジタルトランスフォーメーション(DX)です。2020年にデジタル改革推進部を設け、日本製鉄のDX、すなわち「日鉄DX」を推進しています。
個別最適だった従来の仕組みを標準化やデータ活用で変革する
――日本製鉄は古くからIT活用を精力的に進めてきた。従来の取り組みと日鉄DXの取り組みの違いは何か。
当社は1960年代のメインフレーム時代からITを業務に積極的に取り込んできました。製鉄業は個々の製造工程が非常に大規模かつ繊細で、人手では処理し切れないためです。
ただ当時は複数ある製鉄所それぞれの業務が対象で、個別最適化による製鉄所ごとに独立した“王国”ができあがってしまったことも事実です。近年の変化の激しい経営環境にあっては、全体最適を意識したデータ連携の効率化による意思決定の迅速化が大きなテーマになってきたのです。
膨大な蓄積データを効率よくつなげること、そして、つなげたデータを巧みにあやつること。この「つなげる力」と「あやつる力」をコンセプトに進めてきた日鉄DXにおいては、(1)ロケーションフリー、(2)データドリブン、(3)エンパワーメントの3つの効果を柱に位置付けています。
ロケーションフリーは近年の働き方改革にも通じますが、最も重視しているのは業務の標準化です。働く場所を問わず、あらゆる製鉄所の仕事を他の場所からもできるようになり、生産性や効率性を大幅に高められます。個別最適のままでは、同様の部署に所属していても他の製鉄所の仕事はできません。既に社内の一部で、いわゆるシェアドサービス型の働き方が始まっています。
データドリブンでは当社は、経営層も現場も同じデータを見て判断し、より早く、かつ正確に仕事を回せる仕組み作りを推進しています。例えば、ダッシュボードの運用は既に始めています。経営層の要求を基に開発したもので、生産状況や市況情報など経営判断に関わる各種情報が一望の下に確認できます。日常的に利用されており、一度システムに不具合が発生した際に社長から直接問い合わせがあり、慌てて対応しました。
ダッシュボードは、集計データを見ながら、必要に応じてデータを深掘りでき、元データにまでたどり着ける仕組みになっています。これにより、経営報告のために各部署が階層ごとに行ってきたデータ集計作業も大幅に軽減できました。
エンパワーメントでは、デジタル技術を活用し人の判断や業務支援の高度化に取り組んでいます。当社の研究所が開発した各種の最適化エンジンやAI(人工知能)技術などを使い、人では到底、不可能なデータ分析などを推進しています。