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製品ライフサイクルを貫く「デジタルスレッド」が製造業の競争力を支える

米Aras CEOのロケ・マーティン氏、CTOのロブ・マクアヴェニー氏、上級副社長のレオン・ローリセン氏

佐久間 太郎(DIGITAL X 編集部)
2025年11月27日

製造業におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)に向けたデータ活用においてPLM(Product Lifecycle Management:製品ライフサイクル管理)システムの重要性が従来に増して高まっている。PLMソフトウェアベンダーの米ArasのCEO(最高経営責任者)であるロケ・マーティン氏と、CTO(最高情報責任者)のロブ・マクアヴェニー氏、上級副社長 グローバル営業のレオン・ローリセン氏に、PLMシステムの最新動向を聞いた。(文中敬称略、肩書は取材時のもの)

――製造業は労働人口が減少する中でのソフトウェア化への対応など、さまざまな経営課題に直面している。PLM(Product Lifecycle Management:製品ライフサイクル管理)システムの利用方法は、どう変化してきているか。

米Aras CEO(最高経営責任者)のロケ・マーティン(Roque Martin、以下マーティン) :企業の競争力を根幹から支えるために、PLMシステムの戦略的な利用が始まっている。製品に関わるすべての情報を一元管理し、組織全体で共有・活用するだけでなく、データ間の「関連性」への関心が高まっている。

 なぜなら、製品データには、要件定義やシミュレーション結果、品質情報、製造指示など、さまざまな側面や視点による情報が含まれている。いずれか1つの変更がライフサイクル全体に及ぼす影響を把握し、素早く意思決定を下す必要があるからだ。

写真1:米Aras CEO(最高経営責任者)のロケ・マーティン(Roque Martin)氏(中央)、CTO(最高情報責任者)のロブ・マクアヴェニー(Rob McAveney)氏(左)、上級副社長 グローバル営業のレオン・ローリセン(Leon Lauritsen)氏

米Aras CTO(最高情報責任者)のロブ・マクアヴェニー(Rob McAveney、以下マクアヴェニー) :例えば、市場に投入した製品で故障が多発するような品質問題が発生したとする。このとき、世界トップクラスの製造企業が今、求めているのは、市場からのフィードバックを上流である設計の初期段階に戻り、正確に要件を変更できる能力である。

 この時、故障情報から関連する設計要件やCAD(コンピューターによる設計)データ、シミュレーション結果を追跡するためには、製品のライフサイクル全体を貫く「デジタルスレッド(情報の流れ)」が構築されていなければならない。データがサイロ化し関連性を把握できなければ、フィードバックループが機能せず、設計は変更されないまま翌年も同じ問題が繰り返されることになる。

環境のためのサスティナビリティや規制対応は事業継続の必須要件

マーティン :デジタルスレッドが求められる背景には、サステナビリティ(持続可能性)や規制対応の課題もある。これらへの対応は、もはや任意の努力目標ではなく、事業継続のための必須要件になりつつある。例えばEU(European Union:欧州連合)の「デジタル製品パスポート(DPP:Digital Product Passport)」は、製造業にサプライチェーン全体でのデータ透明性を要求している。

 CO2(二酸化炭素)排出量や化学物質情報などサステナビリティに関連するデータも、部品の寸法や材質といった従来の技術情報と等しく扱うべきものになった。製品の設計情報と分断することなく、密接に関連付けて管理する必要がある。

――PLMシステムの利用場面に変化はあるか。

米Aras 上級副社長 グローバル営業のレオン・ローリセン(Leon Lauritsen) :PLMシステムの利用者が、設計・開発部門の専門家から、製造現場や保守サービスといった業務領域へと拡大している。例えば、製造現場での点検で発見した製造上の問題を報告したり、サービスエンジニアが現場で、保守作業に必要な手順や部品情報にアクセスするなどだ。

 ただ、こうした設計担当者以外の利用者は、業務に直結した特定の情報に、簡単かつ迅速にアクセスできることを求めており、ポータルサイトやアプリケーションを介して情報を見るのが主で、PLMシステムの全機能を必要とはしていない。

マクアヴェニー :必要な機能とデータだけにアクセスするためのシンプルなアプリケーションを構築できるよう、API(Application Programming Interface)基盤「Innovator Edge」を提供しているのも、そのためだ。外部ツールをアドオンするのではなく、Arasの基盤上で作成できる。

 必要な情報へのアクセスを最小限に絞り込むことでセキュリティの確保も容易になる。企業はPLMの利用範囲を安全に拡大し、デジタルスレッドを組織の隅々にまで行き渡らせることができる。

AI技術がPLMとデジタルスレッドの価値を増幅する

――データ活用へのAI(人工知能)技術の適用が広がっている。PLMシステムには、どのような価値を提供できるか。

マクアヴェニー :AI技術の活用は、PLMシステムとデジタルスレッドの価値を増幅させる。その役割には(1)情報の発見、(2)非構造化データの構造化、(3)暗黙知の形式知化の3つの次元がある。

 情報の発見では、デジタルスレッドの情報量が増大する中で、複雑なデータの中から利用者が必要な情報の文脈を理解して提示する。情報検索に費やす時間を削減し、製品開発のリードタイム短縮に直接貢献する。

 非構造化データの構造化では、サイロ化してきた図面や仕様書といったドキュメントを解釈し、部品番号や材質などの重要な情報を抽出し、デジタルスレッドの一部として追跡可能にする。品質管理やコンプライアンス対応の精度を高められる。

 暗黙知の形式知化では、従業員の頭の中にある知見をデジタル資産に変える。例えば、AIシステム自体に「なぜ、この材質を選んだのですか」など意思決定要因について問い続けることで、ベテランが“当たり前”と思ってきた知識の捕捉が可能になる。製品データに加え、この“なぜ”への回答もPLMシステムのデジタルスレッドで管理していく。

――これらの実現において、Arasの競合優位性は何か。

マーティン :競合他社の多くは、特定のCADソフトウェアや業務領域に特化してPLMシステムを発展させてきたという歴史的経緯があり、アーキテクチャー上、機能拡張が困難だという課題を抱えている。製品のライフサイクル全体をカバーしようとすると、別のアプリケーションを追加せざるを得ず、顧客によるカスタマイズにも制限がある。結果、新たなシステムのサイロ化を生み出してしまう。

 当社のPLMシステムである「Aras Innovator」は、特定のツールに依存しないオープンな基盤として設計してきた。顧客によるカスタマイズがArasの基盤には影響しないアーキテクチャーにより、オンプレミス版で提供している機能とローコードによるカスタマイズ環境をそのままSaaS(Software as a Service)版でも提供できている。

 デジタル製品パスポート(DPP)が要求するような新しいデータ項目の追加や関連付けなども、大規模な改修は不要で、データモデルの拡張により対応できるようにする。