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独NRW州が日本のスタートアップを誘致、ロボットやEV、Industry 4.0などをテーマに

田中 克己(IT産業ジャーナリスト)
2017年9月27日

ドイツのノルトライン・ヴェストファーレン(NRW)州の関係者がこのほど来日し、日本のスタートアップ企業らに同州への進出を働きかけた。ロボットや電気自動車(EV:Electric Vehicle)、Industry 4.0といったテーマに挑戦する企業に向けて同州が用意する支援策を紹介した。スタートアップ企業の技術力によってデジタル化を加速し、経済発展につなげる狙いがある。

 ノルトライン・ヴェストファーレン(NRW)州と聞いてもピンとこないかもしれない。だが州都のデュッセルドルフ市や、同州にあるアーヘン工科大学といった名前を聞けばイメージが沸くだろう。ドイツのGDP(国内総生産)の2割超を占める。

 NRW州の経済・イノベーション・デジタル化・エネルギー省で国際経済局の局長を務めるヘルベルト・ヤコビー氏によると、同州に本社などの拠点を設けるスタートアップ企業(創業10年未満)は「2016年末に2013年の約3倍の1400社超にまで増えた」。独のその理由として、「スタートアップ企業が協業できる伝統的な企業が多数あること」を挙げる。

 同州には、自動車やバイオ、エネルギー、化学、食品、Industry 4.0関連などの大手から中小企業までが本社を構えている。外資系企業も約1万9000社が進出し、うち日本企業は約600社になる。直近の2016年に進出した外資系企業413件のうち日本企業は31件と7%超を占めた。

 デュッセルドルフ市のトーマス・ガイゼル市長も、「当市には、Industry 4.0やデジタルによる革新に取り組むエネルギーなどの伝統的な大企業やIT企業、通信会社が集めっており、彼らと共同でチャレンジできる環境がある。イノベーションにオープンな街であり、スタートアップのイニシアティブも活発だ」と地域の良さを説く。同市は、自動運転のパイロットプロジェクトなどデジタル技術を駆使したスマートシティ作りに取り組んでいる。

スタートアップとの共創拠点を州内6カ所に設置

 スタートアップ企業に向けたNRW州の協業策はいくつかある。1つは、デジタル経済を推進する「デジタル・イノベーションハブ」。州内6カ所に設置し、スタートアップ企業と大手を結びつけたり、金融や経営などのノウハウやサービスを提供したりする。コワーキングスペースも用意する。最近はAI(人工知能)によるイメージ分析やスマートテキスタイル/同アパレル、ロボティクス、医療技術関連のスタートアップ企業も呼び込んでいる。

 通信インフラも改善を図る。光ファイバーやWi-Fiなどを整備し、例えばブロードバンドは現在の50メガビット/秒を2025年までにギガビット/秒にまで高める計画だ。これらに企業投資を促すとともに、州政府も約70億ユーロを投入するという。

 デジタル化などに力を入れる州政府の姿勢を示す動きとして、経済省の名称変更も挙げられる。2017年5月に、今の「経済・イノベーション・デジタル化・エネルギー省」に変えた。CIO(最高情報責任者)も内務省から経済・イノベーション・デジタル化・エネルギー省経済省に異動させ、電子政府を含めたデジタル化も推進する。

 既に日本からは、医療ロボットスーツなどを開発するサイバーダインや、視覚障害者用メガネなどを開発するQDレーザーなど数社が、この5年間に進出している。州政府傘下の経済振興公社であるNRWインベストは25年前から日本法人を置いており、日本のスタートアップ進出は、同法人の活動成果でもある。

 ヤコビー局長は「スタートアップ企業はIndustry 4.0や経済のデジタル化などによるイノベーションの重要な役割を担う。スタートアップ力に期待し、育成・支援や大手との融合を強化していく」と語る。日本の地方自治体などもスタートアップ誘致に動いているが、スタートアップ企業にとっては「海外」という選択肢もあるわけだ。