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「IoTの課題はネットワークだけでは解決しない」と米シスコが指摘する理由

志度 昌宏(DIGITAL X 編集長)
2017年9月29日

デジタル化の手段として注目されるIoT(Internet of Things:モノのインターネット)。だが、センサーからネットワーク、データベースなど様々な技術要素が関係するだけに課題も少なくない。米シスコシステムズでIoTクラウド事業を担当するJahangir Mohammed(ジャハンギール・モハメッド)Vice President兼General Managerは、IoTの課題として4つを挙げ「ネットワークで解決できるのは1つだけ」とした。残り3つの課題解決のカギを握るのは「データ」だという。

 デジタルトランスフォーメーション(DX)の実現に向けては様々なアプローチが可能だ。しかし、いずれのアプローチにおいても共通するのは、データの持つ価値をいかにビジネスに活用するかである。そのため、より大量・多彩なデータを集める手段としてのIoTに注目が集まっている。

 米シスコシステムズ日本法人は2017年9月21日、同社のIoT戦略についての説明会を開いた。同説明会に登壇したIoTクラウド事業担当のJahangir Mohammed(ジャハンギール・モハメッド)氏は、データから価値を得るためには「モノから取得したデータをアプリケーションに届けなければ、ビジネスへの価値は引き出せない」と説明。ところがIoTではデータを生成するモノやアプリが、「至るところに分散して存在するために複数の課題を生みだしている」と指摘する(図1)。

図1:分散するモノとアプリケーション

 IoTが生みだす課題としてモハメッド氏は、次の4つを挙げる。

(1)デバイスの多様化で接続、セキュリティ、運用管理が複雑化
(2)多くのデータがモノの中に閉じ込められたままになっている
(3)適切なデータを適切なタイミングで適切なアプリに移動させるプログラム化された手段が存在しない
(4)データのプライバシー、セキュリティ、オーナーシップを管理して徹底できるソフトウェアがない

 このうち、(1)の課題に対する解決策としてシスコが用意するのが「IoT Network Fabric」である。買収したJasper製品を利用する仕組みで、モノとネットワークの間に位置し両者の接続を管理する。いわゆるエッジコンピューティングのためのネットワークを実現する。ちなみにモハメッド氏はJasperの設立者である。

データの位置、利用状況を管理する

 では残り3つの課題はどう解決するのか。シスコが提案する解決策は「IoT Data Fabric」である。実体は、2017年6月に発表した「Cisco Kinetic」というソフトウェア製品群だ。「データの取得」「データの処理」「データの移動」の3つの機能を提供する。

 Kineticのソフトウェア群には、IoT用のゲートウェイ機器上やシスコ製スイッチ機器上で動作するソフトウェアが含まれる。これらによりゲートウェイ上でデバイスから得たデータをネットワークに流す前に処理するなどが可能になる(図2)。例えば、データ量を間引いたり、平均値だけを送信したり、しきい値を超えた値だけを送信したりだ。これらの処理やデータの流れは中央から一元管理する。

図2:Kineticが実現する「IoT Data Fabric」の概念

 加えてKineticはデータのAPIを提供する。データAPIを利用することで、必要なアプリケーションの構築やデータの可視化が可能になる。データAPIの利用状況を監視すれば、データ単位でのセキュリティも確保できることになる。モハメッド氏は「IoTは分散した仕組みにならざるを得ない。だが、そこにデータの“取得・処理・移動”の3機能を提供できれば、データの価値は引き出せる」と強調する。

 シスコは、このKineticの導入を容易にするために産業別のスターターキットも投入する。都市、製造業、石油/ガス、交通、小売りの5業種を用意するが、日本では都市と製造業の2業種から展開する計画である。

 IoTが注目される中、冒頭に指摘したように「データの価値」に対する認識も高まっている。ITベンダー各社も、データの存在場所や利用状況の把握から、利用者が必要とするであろうデータの“推奨(レコメンド)”まで、様々な側面からデータへの関与度合いを強めようとしている。ネットワークベンダーのシスコも今回、データの管理へと歩みを進めてきた。「IoTプラットフォーム」を掲げる各種の製品/サービスも、同様の機能強化を図るだろう。

 最終的にビジネスに影響を与えられるだけの価値を生みだすのは、データを処理するアプリケーションに依存する。だからこそKinetiはがデータAPIを提供し、必要なアプリケーションの開発をうながす。ITベンダー間の競争によって、アプリケーション開発に必要なIoTインフラは確実に進歩してきている。デジタルなビジネスを考える立場であっても、ITベンダー各社が考えるアーキテクチャーや、その背景にある思想にも関心を持つ必要があるだろう。