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タイのエビ養殖の生産性をIoTで向上へ、IIJが実証実験

志度 昌宏(DIGITAL X 編集長)
2018年5月15日

タイの主要産業の1つであるエビの養殖事業の生産性向上に向けたIoT(Internet of Things:モノのインターネット)システムの実証実験をIIJ(インターネットイニシアティブ)が2018年8月から開始する。日本貿易振興機構(JETRO)の公募事業において「IoT導入による養殖事業の生産性向上プロジェクト」が採択された。2018年5月15日に発表した。

 タイの水産事業は輸出総額の4%ながら、多くの人が同事業に従事している。なかでもエビの生産量は世界の6%を占める。ただ、就業者数が多い分、生産性は低いのが現状だ。エビの養殖では、その生存率の国内平均は6割程度とされ、ウイルスなどに感染すると全滅するケースもあるという。

 こうした現状をデータに基づく養殖手順を確立することで改善しようとするのがIIJ(インターネットイニシアティブ)が取り組む実証実験だ。養殖場にセンサーを設置し、水温やpH(水素イオン指数)などの水質環境情報を収集する。特にイオンセンサーを利用し毒性の高いアンモニアと亜硝酸の発生量を直接測定することで、エビの育成への影響を把握したい考えだ(図1)。

図1:エビ養殖ではアンモニアと亜硝酸が有害物質になりエビの免疫力を下げる

 加えて、餌を与えたり水質の改善剤を投入したりといった作業の実施情報を記録することで、作業効率や生産性の向上を図る。ベテランの経験や勘に頼らない標準的な養殖手順の確立も目指す。水質環境と飼育作業の相関関係についてはAI(人工知能)を使って分析する。

 実験には、タイの大手水産加工会社と、総合商社大手のLoxley Public Companyと共同で取り組む。水産加工会社が持つビニールハウス形式の養殖場を実証フィールドとし、各種センサーを設置する。Loxleyは、タイ語にも対応したアプリケーションを開発する。同アプリケーションを使って養殖の従事者は、水質環境などをモニタリングできるほか、各種作業の実施履歴を入力できる。

 IIJは全体を取りまとめるほか、センサー情報を集約するための無線環境としてLPWA(Low Power Wide Area)の通信規格「LoRaWAN」を使ったゲートウェイ、および現地で展開しているクラウドサービス「Leap GIO Cloud」を提供する(図2)。ゲートウェイからクラウドの間はIIJグループが提供するIoT向けグローバルSIM「Vodafone IoT SIM」を利用する。

図2:タイのエビ養殖場で実施する実証実験のシステム構成

 今回の実験は、日・ASEAN経済産業協力委員会事務局(AMEICC)が委託するもので、日本貿易振興機構(JETRO)の公募事業「日 ASEAN 新産業創出実証事業」において採択されたもの。2018年4月から7月にシステムを開発し、8月から2019年3月まで実験を続け、有効性などを評価する。

 IIJとしては2019年4月の実験終了後は、タイのほかASEAN地域の養殖業あるいは水産業を対象にしたサービスとして事業化を図りたい考えだ。