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化学プラントのデジタル化が進むなか不正アクセスも増加、米Accentureが調査

DIGITAL X 編集部
2018年5月29日

「化学プラントのデジタル化は収益に大きく貢献している」ーー。化学業界の経営層が、こう判断していることが米Accentureの調査で明らかになった。一方で、ネットワークにつながることで、不正アクセスなどのリスクも拡大しており、対策が遅れていることも分かった。日本法人が2018年5月16日に発表している。

 今回の調査は、世界の化学事業者における各種最高責任者(CxO)や経営層、部門リーダーを対象に、2017年3月中旬から4月中旬にかけてオンラインで実施したもの。日本、カナダ、フランス、ドイツ、オランダ、サウジアラビア、シンガポール、スイス、トルコ、アラブ首長国連邦、英国、米国の12カ国、それぞれから30人の計360人が回答した。企業規模は年間売上高が5億〜200億ドルである。

 報告書である『Digital Technologies in Chemical Plant Operations(化学プラント操業におけるデジタル技術に関する調査)』によれば、最優先の投資対象は「計画・スケジューリング」で、「生産実行」と「資材管理/サプライチェーン」が続く。

 回答者の80%が「すでに自社の化学プラントのデジタル化に大規模な投資を行っている」とし、「今後3年間で全社的なデジタル化に向けた設備投資を増加させる」という回答者が85%に上る(図1)。回答者の92%が「デジタル化によるメリットに満足している」とし、95%は「デジタル技術の導入は、目に見える形で収益面での成果につながっている」という。

図1:化学プラント業者に対して、デジタル技術の導入予定と、技術によって得られた効果を尋ねた結果

 具体的なメリットとしては「効果的な操業管理」や「製品品質の向上」などが挙がる。製造工程の営業利益への貢献では「10〜20%改善した」とする回答が31%、「20〜40%改善した」とする回答も20%あった。過半数が少なくとも10%以上の改善を図れていることになる。

 最も戦略点なデジタル技術としては「人工知能/機械学習」と「ビッグデータ/アナリティクス/エッジコンピューティング」を挙げる声が強い。人工知能については、27%がすでに実運用に入っており、33%が実証中という。ビッグデータについては、24%が実運用中で、43%が試験運用段階にある。

 特にビッグデータに対しては、ROIにおいてポテンシャルが高いとみる声が強い。回答者の51%が「今後3年間のデジタル投資分野のトップ3に入る」とし、そのうちの3分の1は、今後1年以内にデジタル関連予算の「21〜40%をビッグデータに割り当てる」としている。

7割以上が過去1年に30件以上の不正アクセスを経験

 デジタル化への期待が高まる一方で、化学プラントにおけるサイバーセキュリティ上の脅威も高まっている。「過去1年間に操業中のプラントを狙った不正アクセスの試みが30件以上あった」とする回答が73%もあった。しかも54%が「30件以上の不正アクセスを防止できなかった」と答えている。50%は「不正アクセスを検知するまでに数日から数週間、中には数カ月もかかった」ともいう(図2)。

図2:化学プラント業者の70%以上が不正アクセスがあったことを認めている。半分以上がうまく対処できていないことも明らかになった

 「サイバーセキュリティのインシデントによる経済的リスクを管理し、または損害を最小限に抑えることができる」とする回答は42%、「不正アクセスの原因を特定できる」とする回答は39%だった。「不正アクセスを監視できる」という回答は33%と、より強固な対策を取ることが難しいと感じていることが分かる。

 こういした結果に対し、Accentureの素材・エネルギー本部素材産業統括マネジング・ディレクター兼サイバーセキュリティリードを務めるRobert Boyce氏は、「旧来型の技術を活用したシステムが多く残っているプラントでは、拠点ごとの技術を標準化できていない例もある。その結果、拠点ごとにセキュリティの管理レベルに格差が生じ、無防備な状態を招きやすくなっている。サイバー攻撃からプラントを保護するには、より効果的に対応・対処できる素早さと適応力が必要だ。そのための設備や技術に早急に投資すべきだ」と指摘する。