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現金・窓口なしの“待たない銀行”を三井住友銀行が出店した理由
三井住友銀行は2018年7月30日、東京港区に新しい形態の新店舗「汐留出張所」の営業を開始した。ATM(現金自動預払機)以外には現金は扱わず、一般的な店舗にある窓口もない。代わりに、誰でもが利用できるWi-Fi環境やテーブル席などを設置する。ターゲットは、デジタルなサービスを多用している現役世代。同行のオムニチャネル戦略の実験店舗の位置付けだ。
三井住友銀行が2018年7月30日に開店した「汐留出張所」は、現金を扱わず、通常店舗にある窓口もない店舗である。代わりに、広いフリースペースやカウンターテーブル、および個別相談用の個室を用意する。広さも280平方メートルと一般的な店舗の3分の1以下なうえに、「通常店舗が従業員の執務エリアが広いのに対し、顧客用スペースが8割強を占める」(三井住友銀行 リテールIT戦略部長の上村 明生 氏)という新形態の店舗である。
汐留出張所がターゲットにするのは、20〜50代の現役世代。銀行窓口を2〜3カ月に1回以上利用する人の割合は、60代以上が4割を超えるのに対し、50代以下は3割を下回っているからだ(全国銀行協会調べ、2015年度)。上村氏は、「将来の優良顧客に対し、早くから接点を持ちたい」と、その理由を話す(写真3)。港区・汐留を選んだのも、オフィスビルが集積し、そこに6万人が働いているとされるからだ。
その背景には、金融機関が進めるデジタル化の進展がある。三井住友銀行が提供するオンラインバンキングサービス「SMBCダイレクト」の利用者数は、2017年度に前年より60万人増え、デジタルチャネルの利用率も同4.4%増だった。それに伴い店舗の窓口利用者数は10%減少している。店舗数の縮小や窓口業務の見直しなど既存業務の改善およびデジタルネイティブな世代の獲得という観点から見れば、デジタル化の効果が上がっているようにみえる。
だが上村氏は、「(デジタルネイティブな世代であっても)スマートフォン用アプリケーションの提供・強化だけでは接点を得られない層がある」と話す。「オンラインで十分な層もあれば、オンラインとリアル店舗の複合や、リアル店舗のほう良いという層がある」(同)との考えからだ。
そのため店舗にはATMでの現金の出し入れを除いては現金を扱わない。窓口もなく、標準的な取引は、店頭に並べたタブレットや顧客が持つスマホなどを使って実施する。利用できるサービスは一般にオンライン提供している範囲にとどまるが、操作方法などは店頭スタッフから教わることはできる。
汐留出張所のコンセプトは「ふらっと立ち寄れ、役立つ情報が得られる」ことだ。そのために(1)営業時間、(2)予約制、(3)Wi-Fi、(4)セミナーという4つの特徴を持たせた。営業時間は11時半〜19時とし、昼休み前後や退社後の来店を狙う。
「役立つ情報」は「資産運用など将来に向けた金融知識」(上村氏)。そのための個別相談は予約制とし店頭での待ち時間を解消する。コンサルタント2人が常駐し、1日最大20人程度の個別相談に対応できるという。
誰もが利用できるフリースペースには、Wi-Fiと電源を用意し無償提供するほか、同行のデビットカード保有者なら自動販売機のドリンクを無料で飲める(写真4)。スタンプカード機能を持つスマホアプリも提供し、来店時やセミナー参加時にスタンプも付与する。同スペースの配置を変えることで、資産運用などをテーマにしたセミナーも定期開催し、来店をうながす。
ただ、いくつかの疑問は残る。たとえば、ふらっと立ち寄っても予約が一杯なら個別相談は受けらないし、それを嫌って予約が一般的になれば、ふらっと立ち寄る客は経る。店頭で利用できるサービスはネット上で利用できるものと共通なのでデジタルネイティブな世代ほど、リアル店舗の差異化点は感じられないといったことである。
「フリースペースもWi-Fi提供も、今回が初めて」(上村氏)という汐留出張所。上記の疑問点を含めて、デジタルチャネルとリアル店舗の価値を測る実験店舗ということなのだろう。三井住友銀行は、汐留出張所での利用状況などを検証し、有効策があれば他店舗への展開を考えていく。
ネットと実店舗の融合といえば小売業の重要課題ではあるが、それは銀行のリテール部門も同じ。三井住友銀行の汐留出張所での取り組みは、銀行の店舗をどう変えていくのだろうか。