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自動運転時代に増える職業、損保ジャパンが自動運転車向けサポートセンターを開設

志度 昌宏(DIGITAL X 編集長)
2018年10月9日

自動運転車の実用化に向けて実証実験が各地で実施されている。そうした中、損害保険ジャパン日本興亜が、自動運転車の運行をサポートする「コネクテッドサポートセンター」を開設し、実証実験を実施した。同センターでは、自動走行車を遠隔監視するとともに、自律走行できなくなったクルマの操縦もする。遠隔監視や操縦のオペレーターは新たな職業の1つになりそうだ。

 損害保険ジャパン日本興亜が2018年9月27日に開設したのは、自動運転時代に向けた保険サービスの研究拠点となる「コネクテッドサポートセンター」。自動車保険に付随するロードアシスタンス業務を手がけるグループ会社、プライムアシスタンスのコンタクトセンター内に併設した(写真1)。

写真1:プライムアシスタンスのコンタクトセンター内に設けられた「コネクテッドサポートセンター」。奥にあるのが遠隔監視と遠隔操縦のためのオペレーター席、手前は顧客と対話するオペレーターの席

自律走行できなくなれば遠隔地からリモート操縦

 開設日に実施した実証実験のシナリオはこうだ。レベル4(完全自動運転)相当の自動運転車が乗客を迎えに行き、指定位置で乗客をピックアップ。目的に向かうも前方に事故車が止まっており、動けなくなってしまう。

 ここで、自動運転車を遠隔監視していたコネクテッドサポートセンターのオペレーターは、遠隔操縦担当者とトラブルが発生していることを確認。乗客に状況を知らせた後に、危険回避のために遠隔操縦することを通知する(写真2)。

写真2:実証実験中のオペレーターと、遠隔操縦者(左)。画面上で自動運転車の状況を確認しながら、乗客の安全・安心を確保しながら、遠隔操縦で危険を回避したり、代替サービスを提供したりする。

 そこから遠隔操縦により、前方車両を避けるコースに向かうが、直後に車が異物に乗り上げたという想定で、再度停車する。

 オペレーターは、乗客の安全を確認したうえで、タイヤのパンクを検知。遠隔操縦担当者も、遠隔操作でも移動できなないと判断したことから、オペレーターが代替車を手配し、乗客にも代替車が迎えに来ることを伝えた。

 実験に登場した、自動運転車を遠隔操縦するオペーレーターは、これまでにない仕事である。東京大学 准教授の加藤 氏は、「自動運転車の運用には、遠隔監視や遠隔操縦をするオペレーターとの組み合わせが標準になっていくだろう。遠隔操縦オペレーターの資格認定もされるのではないか」と話す。

 実証実験では、1人のオペレーターが、1台の自動運転車に対応していたが、「将来的には1人のオペレーターが10台程度の自動運転車をサポートできるような仕組みにしたい」(加藤氏)という。システム的には対象台数を増やせても「人が十分に対応できる台数としては10台程度になるだろう」(同)との見方である。

保険契約者やサービス提供形態など検証項目は多い

 実験のシナリオに現れているように、コネクテッドサポートセンターが研究するのは、自動運転車を対象にしたサポートサービスのあり方。同センターでは、まずは自動運転車を遠隔監視し、危険や異常などがあれば遠隔操縦で回避する。その間の事故やトラブルに対応するためのヘルプデスク業務を想定し、それらを実現するための環境や、サービス内容を検証していく。

 損害ジャパンの取締役専務執行役員である飯豊 聡 氏はセンター設置の狙いを、「自動運転時代が訪れるのは確実だが、本格的な普及までには、実証実験を含め、自動運転車が安全・安心できる仕組みであることが利用者にも広く理解されなければならない。コネクテッドサポートセンターでは、そうした安心・安全につながるサービスを各種の実証実験にも提供しながら、検証を進めていく」と説明する。

 同時に、新サービスを提供する際の保険証品としてのビジネスモデルも検証する。自動運転時代には、シェアリングサービスやモビリティサービスが広がり、クルマの所有形態や利用形態が多様化するだけに、誰がサポートサービスの利用者や契約者になるかも、さまざまなケースが考えられるからだ。

 たとえば、オペレーターが対話しているのは乗客だけだが、この乗客が自動運転車の所有者とは限らない。タクシー会社の所有、あるいは第3者が所有する車両によるシェアリングサービスかもしれない。コネクテッドサポートセンターが提供するサービスの提供コストを誰が負担するかも検討が必要だ。

 また前方の停止車を遠隔操縦で回避しようとした際にパンクしている。自動運転車であっても、こうした物理的な障害が発生することはゼロではないだろうから、現状のロードアシスタンスのようなサービスは不可欠なのだろう。加えて、このパンクの責任は誰が負うのかも検討する必要がありそうだ。

 コネクテッドサポートセンターの実証実験には、アイサンテクノロジー、ティアフォー、KDDI、マクニカが参加した。

 アイサンテクノロジーは、東京大学で自動運転車を研究する加藤 淳 准教授が取締役CTOを務める会社で、自動運転用の3D(3次元)地図の作製と自動運転車の走行支援を担当、ティアフォーは自社開発したオープンソースの自動運転ソフトウェア「Autoware」と連携する遠隔監視システムを開発した。KDDIは、自動運転車のためのネットワーク構築を支援し、マクニカは自動走行車などを提供する(写真3)。

写真3:コネクテッドサポートセンターの実証実験に参加した各社のトップたち。右から3人目が、損保ジャパン 取締役専務執行役員の飯豊 聡 氏、4人目が東京大学 准教授でアイサンテクノロジー取締役CTOの加藤 淳 氏

 なお、コネクテッドサポートセンターの実証実験後には、レベル3相当の自動運転車による隊列走行の実証実験も実施した。東京・新宿の損保ジャパン本社から、東京・中野のコネクテッドサポートセンターまでの公道を、自動走行車の手動運転と自動走行車が交互に4台が連なって走行した。

 こちらの実験には、マクニカとアイサンテクノロジーのほか、埼玉工業大学発のベンチャー企業であるフィールドオートが参加した。各社とも開発中の自動運転車を提供している。