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旅で社会課題の解決に挑むANAも期待する日本オラクルのDX推進室、大手顧客のクラウド化を加速できるか
ANAホールディングスのデジタル・デザイン・ラボ チーフ・ディレクターである津田 佳明 氏が、都内で8月に開催された「Modern Cloud Day Tokyo」(主催:日本オラクル主催)に登壇し、デジタルトランスフォーメーション(DX)に向けたサービスを共同開発する日本オラクルの「DX推進室」への期待を語った。日本オラクルのDX推進室に出遅れ勘はないのか。
ANAは、政府の成長戦略である「Society 5.0(超スマート社会)」の実現に向けた取り組みの1つとして「AVATAR(アバター)」事業を始動させている。アバターによる“瞬間移動”で種々の社会課題の解決に当たりたい考えだ。
ANAホールディングス デジタル・デザイン・ラボ チーフ・ディレクターの津田 佳明 氏は、アバター準備室長でもある。津田氏は「デジタル・デザイン・ラボでは、現在の主業である航空運輸を破壊する次のビジネスは何かなど、新しいビジネスの可能性をゼロベースで議論し、研究し、実験している」と説明する(写真1)。
ラボの活動の1つに、旅を通じて社会課題の解決を図るサービス「ジャーニー+(プラス)」の開発がある。「このような取り組みを実業に持っていけるかどうかの判断で最も重要なのは、データドリブンな考え方だ」と津田氏は強調する。
ジャーニー+の開発は、日本オラクルと共同で取り組んでいる。津田氏は、「日本オラクルが新設した『デジタル・トランスフォーメーション推進室(以下、DX推進室)』には、ビジネスに耐えるテクノロジー活用のノウハウを提供してくれると期待している」と話す。
テクノロジーや海外で実績のある手法も紹介
ANAが期待するDX推進室とは、オラクルのクラウドアプリケーションやデータベース基盤を使って企業がDXに取り組むことを支援するための組織。2019年6月に発足し、7月29日に対外発表した。
日本オラクルはこれまで、強みであるデータベースを核に、企業の基幹系システムをクラウドに移行させることで新しい価値を生み出す取り組みを進めてきた。これに対しDX推進室では、AI(人工知能)による分析や、ブロックチェーン、VR(仮想現実)/AR(拡張現実)といった新しいテクノロジーを取り入れた新事業の導入支援、海外で実績がある手法の紹介などで日本企業のDXを支援するとしている。
DX推進室長に就任した七尾 健太郎 氏は、DX推進室の強みについて、「テクノロジーから、開発・実行基盤、アプリケーションまで、オラクルにはフルスタックのクラウドサービスがそろっている。ビジネスモデルを実験する際に、プロトタイプを短期間で作り、すぐにテストと改修ができる。企業の求めに一気通貫で応えられる」と説明する。
ただオラクルにすべてをロックインされることを嫌う企業もいるのではという懸念が出てくる。これに対しクラウド事業の責任者である執行役員クラウド事業戦略統括の竹爪 慎治 氏は、こう答える。
「一番の強みはデータドリブンなビジネスの推進にある。ただ顧客によってはマルチクラウドシステムを志向する企業もある。そのためにオラクル以外のクラウドとも接続できる仕組みを持っている。一方で、IoT(Internet of Things:モノのインターネット)のエッジ部分などはオラクルが持たない領域なので、ここは信頼できるパートナーと組む。現在、当社のクラウドパートナー企業は50社を超えている」
クラウドデータセンターの東京リージョン開設を待っていた
ITベンダーによる顧客企業へのDX支援策やDX支援組織の取り組みはもはや珍しくはない。むしろ日本オラクルのDX推進室の設置は、他社と比べ“出遅れ感”の印象が強い。実際、日本オラクルはDX推進室の態勢検討に2年をかけたという。
この出遅れ感に竹爪氏は、「新興のデジタルネイティブな企業から見れば、2年は確かに遅いと言わざるを得ない。だが、当社の中心的顧客である大手企業にとっては、この2年はDXとは何かを見定めつつ、小さな実証実験を繰り返してきた段階だ。企業の基幹システムの80%はまだオンプレミスで稼働している。DX成功のキーの1つは、クラウドでの迅速なデータ活用にある。その意味でDXが事業として本格的に立ち上がるのはこれからだ」と反論する。
さらには竹爪氏は記者に、こうも話した。
「当社の従来の顧客は、金融や製造などミッションクリティカルな事業を担う業界が多い。そうした企業のワークロードをクラウド化するには、国内に自社のクラウドデータセンターが必要だった。2019年5月に最新のクラウドサービスを提供できる東京リージョンを開設ししたことで、条件は整った。DX推進室は満を持しての発足である」
日本オラクルの顧客は、日本を代表する大手企業が中心だ。DXの取り組みも大手企業との協業になるケースが想定される。そう遠くないタイミングで、DX推進室が中心になって支援した大手企業のDX事例が登場するのかもしれない。