• News
  • 公共

地方自治体の課題をFacebookは解決できるか、東北5自治体が事業連携協定を締結

指田 昌夫(フリーランス ライター)
2019年8月27日
写真1:Facebook Japanと事業連携協定を結んだ東北地方の5自治体の市長ら。右端がFacebook Japan社長の長谷川 晋 氏

東北地方の5自治体(岩手県の盛岡市、秋田県の横手市と、湯沢市、大仙市、仙北市)が米Facebookの日本法人と事業連携協定を結び、2019年9月以降、中小企業や行政を対象にしたFacebookの活用セミナーなどを開催し、地域の情報発信力を高めていく。Facebookは地方の課題を解決できるのだろうか。協定の締結自体は、東京港区のFacebook Japanにおいて2019年7月31日に発表した。

 岩手県の盛岡市と、秋田県の横手市、湯沢市、大仙市、仙北市という東北地方の5自治体がFacebook Japanと結んだのは、「地域経済・地域コミュニティ活性化に関する事業連携協定」。Facebookと地方自治体の提携としては、2019年1月の山口県下関市、同年6月の神戸市に続くものである。

 下関市と神戸市との協定では、(1)市政情報の発信支援、(2)地域経済の活性化支援、(3)地域コミュニティの活性化支援の3つのテーマを柱とした。今回協定を結んだ5市も、基本的には同じ活動方針で取り組む。まず9月4日に盛岡市で中小ビジネス向けセミナーを、10月には秋田5市の市政・コミュニティ向けセミナーを、それぞれ開催する。

 盛岡市長の谷藤 裕明 氏は、今回の協定締結について、「支援プログラムにあって特に期待するのが、若年層への取り組みや、海外でのシティプロモーションの強化、地域企業の販路拡大や生産性向上といった地方創生の取り組みである。9月のイベントでは、企業向けのSNS活用セミナーを実施する予定だ。ビジネスチャンスを海外市場にも広げるなど、地域企業の成長を促す機会にしたい。コミュニティの活性化については、災害時の情報共有にも役立てていきたい」と期待を語る。

 仙北市長の門脇 光浩 氏も、「当市は近未来技術実証特区として、農業IoT(Internet of Things:モノのインターネット)などの実証実験に取り組み、『SDGs未来都市』にも指定されている。観光客は年間500万人以上が訪れるが、地域の情報発信が十分にできていない。Facebook/Instagramとの連携で、人口2万7000人という小さな町が、世界に情報を発信できるツールを手に入れたと思っている」と大きな期待を寄せる。

 今後は秋田南部の4市での連携も図る。横手市の高橋 大 市長によれば、「横手市だけで東京23区を超える面積があり。4市を足せば東京都の面積を優に超える。そこに広がる住民に対する情報基盤として、秋田県南地域の活性化にFacebookを活用していきたい」考えだ。

先行する下関、神戸では民間企業を含めた取り組みに発展

 地方都市との連携協定によるFacebook Japanの支援内容ではまず、市職員に対するFacebook/Instagramの情報発信セミナーが開かれる。市役所がSNSを活用する場合、市民や周辺住民に対する情報と、観光で訪れる国内外の幅広い人に対する情報の両面を発信できる必要があるからだ。加えて、平常時の情報だけでなく、災害時の避難情報など緊急性の高い情報の媒体としての利用にも高い期待がある。

 そのためFacebook Japanは、市政が持つ既存のFacebookページの記載内容について、市民や外部からどう読まれているのかを分析。そのうえで、より興味を持って読まれるための情報発信ノウハウや、運用ルールの確認、トラブル対策などを提供する。市役所の特定の人に限定せず、できるだけ多くの職員が効果的な活用できることを目指す。

 先行して連携協定を結んだ下関市では、2019年度は新入職員に対するセミナーを実施するなど、SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)の利用を拡大し活動を定着させる段階に移っている。市長自らが2019年を「情報発信元年」と宣言しセミナーに登壇してもいる。市役所内だけでなく、各地域で活動するNPO(非営利活動団体)や青年会といった地域コミュニティの活動も支援していく計画だ。

 一方の神戸市では、「Facebook87」「Instagram23」そして「Twitter25」という公式アカウントが稼働しているほか、神戸市内のカフェや結婚式場によるInstagram活用の成功例などが出てきている。これは、地域の中小企業に対し、Facebookへの広告出稿を含めたマーケティング全般の知識を提供した結果だという。単にイベントやキャンペーンを告知するだけでなく、日々の営業活動や人材活用につながるSNSの活用法などが含まれるという。

超高齢化社会にはアクティブなシニアが増えるポジティブな側面も

 Facebook Japanが地方創生に向けた活性化プログラムを検討し始めたのは、2018年にFacebookの日本語版提供開始10周年を迎えたのがきっかけ。

 同社社長の長谷川 晋 氏は、「ネットやSNSは、もはや先進的な若い人のものではなく、生活に密着したインフラだ。超高齢化社会は、アクティブなシニアが増えるというポジティブな面もある。自然災害に対する情報発信も重要だ。災害に備えSNSが人と人をつなげられれば、非常時の被害を最小化できると考えている」と話す。

 地方都市におけるSNS活用を活性化させるには、地元で実際に活動している市民が情報を発信し、そこに関心を持った全国のSNSユーザーとのつながりを強めていく必要がある。

 長谷川社長も「地方からの情報発信は、自治体、民間企業、そして住民それぞれとのつながりが増えていくことが重要だ。神戸や下関ではInstagramやFacebookのユーザーが目立ち始めている。そうした人を核に輪を広げる活動も支援していきたい」と語る。

 Facebook Japanはこれまでも、地域振興に向けた支援策を提供してきた。だが、「より地域に密着し、地域の中核への働きかけが必要だと考えて、この事業連携協定の取り組みを開始した」(長谷川社長)。散発的な支援活動より、特定の地域に絞り込んで支援活動を集中させ、短期間にベストプラクティスを作る戦略と言えるだろう。