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北海道で始まった次世代交通網を整備するISOU PROJECT、ブロックチェーンは過疎地を救うか

水野 智之(X-Techライター)
2019年8月30日

北海道・厚沢部地区で、過疎地における次世代交通網の整備を目指す「ISOU PROJECT」の実証実験が2019年8月19日から30日に掛けて実施された。ブロックチェーン技術を使った仮想通貨を組み合わせる。同プロジェクトの事務局の1社であるINDETAILの代表取締役CEOである坪井 大輔 氏が、東京で開かれた「Modern Cloud Day Tokyo」(主催:日本オラクル)に2019年8月7日に登壇し、ISOU PROJECTの狙いなどを解説した。

 「過疎地は、(都市部に住む)皆さんが考えているより、ずっと過疎になっている。そうした地域では自動車のシェアリングを進める必要がある」--。北海道発のローカルベンチャーであるINDETAILの代表取締役CEOを務める坪井 大輔 氏は、過疎化が進む地域の現状をこう説明する(写真1)。

写真1:INDETAIL 代表取締役 CEOの坪井 大輔 氏。INDETAIL は「ISOU PROJECT」の事務局を務める1社。

 「(実証実験を開始した)北海道・厚沢部地区でいえば、そこにタクシーは走っていない。本当の過疎地域では、経済合理性を考えるとビジネスとして成立しないからだ。そうした地域では、民営に完全に任せるのではなく、助成金を使って(移動のための)サービスを提供しなければならない」と、坪井氏は指摘する。

 こうした過疎地の課題を解決するために、2019年8月19日に始まった移動サービスの実証実験が「ISOU PROJECT」だ。ブロックチェーンなど最新技術の活用に取り組むINDETAILは、ITサービス大手のTISとともに、ISOU PROJECTの事務局を務めている。

地域通貨「ISOUコイン」でエネルギーや地域活動の地産地消を促す

 ISOU PROJECTでは、車両に再生エネルギーで走るワゴンタイプのEV(電気自動車)2台を使用する。ガソリンを使わず、「自分たちで作るエネルギーで走ることで地産地消を実現する」(坪井氏)ためだ(図1)。

図1:ISOU PROJECTの全体像

 EVはスマートフォンを使って呼び出せるほか、通常の電話からも呼び出せるようにした。その理由を坪井氏は、「厚沢部地区では高齢化も進んでいるため、一般の電話からも利用できることを重視した」と説明する。「スーパーに何時間後に来てほしい」といったかたちで電話をすればよいという。

 ISOU PROJECTでは、独自の地域通貨「ISOUコイン」を利用するのも特徴の1つである。EVに乗るためには、このISOUコインが必要になる。

 ただ坪井氏は、「地域通貨が成功した事例はめったにない」ともいう。「円やドルといった通常の通貨と横並びで地域通貨が提供されている。横並びであれば、日本での買い物は円を使えば充分だ。現金の代替としての地域通貨であれば、円には勝てない」(同)ためである。

 そこでISOUコインでは、「たとえば『ありがとう』といった感謝の言葉をトークンにより定量化する仕組みにした」(坪井氏)。地域の様々な活動に参加することでISOUコインが貯まり、その仮想通貨でEVに乗れる。

 坪井氏は、「ISOU PROJECTは、地域活動が支える地域の交通サービスである。『1万円払うから乗せてくれ』と言われても乗せられない。このような形にすることで『移動したい』というニーズが、種々の活動に参加するトリガーにもなる」と説明する。

ブロックチェーンにはオラクル提供のサービスを活用

 ISOUコインはブロックチェーン技術を使って管理する。ブロックチェーンの基盤には、オラクルが提供する「Oracle Blockchain Platform」を採用した。Oracle Blockchain Platformは、Hyperledger Fabricをベースに開発されているBaaS(Blockchain as a Service)である。

 Oracle Blockchain Platformの採用理由について坪井氏は、「オラクルが提供するサービスはスマートで、コストも時間も有効的に使える」と説明する(写真2)。「INDETAILでは、ブロックチェーンに取り組む企業だが、事業創造の会社でもある。開発やテクノロジーの利用はあくまで手段であり、それらを活用することで簡略化や時間の短縮ができることが重要だ」(同)とする。

写真2:INDETAILが「Oracle Blockchain Platform」を採用した理由

 坪井氏は、「ISOU PROJECTの目的は事業の達成であり、共に成功させたいという思いの共有がモチベーションを高める。『面白い、すごい、一緒にやろう』という思いの共有が、事業創造に向けた一番の動機になっている」と話す。