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DXのためのソフトウェアに潜む開発と管理の“ギャップ”

米VMwareが主張する「モダンアプリケーション」のための環境とは

指田 昌夫(フリーランス ライター)
2020年3月27日

デジタルトランスフォーメーション(DX)に向けた取り組みに置いてはソフトウェア開発が欠かせない。しかも、市場ニーズを探りながらのアジャイルさ(俊敏さ)が求められる。そんなソフトウェア開発の現場には、開発者とシステム運用管理者の間にギャップがあり、アジャイルを阻害していると、システム基盤ソフトウェアなどを開発・販売する米VMwareが指摘した。どういうことだろか。

 米VMwareは、ソフトウェアの開発・実行環境を実現するためのソフトウェア群を開発・販売している。同社日本法人のヴイエムウェアが3月、「モダンアプリケーション向け新製品」の発表会を開催した。

 製品を説明したヴイエムウェア チーフストラテジストの高橋 洋介 氏は「企業がデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進し競争力を高めるためには、アプリケーション開発を可能な限り早め魅力的なものを作ることが至上命題になっている」と強調する。

 そのためにソフトウェア開発者が利用度を高めているのが「コンテナ環境」である。複数のクラウド環境を使い分けながら、コンテナと呼ぶ小さなアプリケーションを素早くリリースする。そのコンテナ間を連携させるツールの代表格が「Kubernetes」である。

ビジネスの要求スピードが「野良クラウド」を生んでいる

 コンテナやKubernetesなどの開発環境が整いつつある一方で、「企業はそのメリットを十分に享受できていない」とVMwareは主張する。その理由を高橋氏は、「アプリケーションの開発現場とITインフラの管理の現場の間に意識のズレが起きていて、それが企業のDX進展を遅らせる原因になっている」と説明する。なぜか。

 アプリケーション開発者は、ビジネス側の要求に応えるアプリケーションをできるだけ早く開発し実行環境に移したい。これに対しIT管理者は自社が持つ資源の適正な管理と有効活用を使命にしている。両者ともCPU利用率などリソースは効率的な運用を目指しているものの「途中の行動様式が反対の方向を向いているため特に衝突を起こしてしまう」(高橋氏)という(図1)。

図1:アプリケーション開発ニーズとITインフラの管理ニーズがデジタルトランスフォーメーション(DX)の裏側で衝突する

 高橋氏によれば、「アプリケーション開発者は『開発したいコードに専念したい』が本音であり最優先事項だ。にもかかわらず開発用リソースが自由に調達できない状況がある。今すぐ欲しいのに1カ月待たなければいけないという事態も起きてしまう」

 こうしたな開発者の要求に対し、ITインフラ管理者の視点は、企業の信頼性を損なわないようサービス基盤自体のセキュリティや信頼性、可用性の確保にある。さらに昨今は「コンプライアンスとガバナンスの確保が加わり、いっそう効率的な管理環境を求めている」と高橋氏は説明する。

 ガバナンスを強化し過ぎると競合他社に出し抜かれることもありうる。リソースがすぐ欲しい状況にあって、ITインフラ管理部門の視点からの管理により開発が進まないことにストレスを感じている開発者は少なくない。「両者の温度差はマルチクラウド時代になり、さらに拡大した」と高橋氏はみている。そのため最近はITインフラの管理者を通さず、ビジネス部門が直接IT予算を立てリソースを調達するケースも散見される。

 これに対し高橋氏は「開発者が独自のリソースを導入することは良くないと考える。『野良クラウド』の状態になってしまい、企業全体からみれば大きなリスクだからだ。セキュリティ事故や情報漏洩を起こすことがあり得るし、有事に被害状況の確認が遅れ企業に大きな損失を与える。管理者がすべての社内ITを把握している状況が“あるべき姿”だ」と語る。

これからの20年に向けたビジネスIT環境に

 こうした開発スピードとガバナンスという相反するニーズの両立を図れるとするのがVMwareの新製品「Tanzuプラットフォーム」である。2019年に米国で開催した年次イベント「VM World」で基本的な考え方が提示された「VMware Tanzuポートフォリオ」の具体的な製品群だ(図2)。

図2:「Tanzuプラットフォーム」のポートフォリオ

 Tanzuプラットフォームは、ビジネス運用に耐える商用ディストリビューションと、コンテナ開発環境の管理サービスなどからなっている。従来の仮想マシン上のアプリケーションと、コンテナ上に開発したアプリケーションを同一画面から一元管理できるとする。いう、マルチクラウド環境のアプリケーション開発にVMwareの仮想化技術をそのまま拡張し、引き継ぐことができるとしている。

 Kubernetesでアプリケーションを開発・実行するための各種のツールも用意する。開発者はプログラミングに専念でき、実行環境も自身で入手できる。一方のITインフラ管理者は、誰がどの環境向けに、どれだけのリソースを使ってアプリケーションを開発しているかを1画面で確認できる。必要に応じてリソースを増強あるいは利用制限をかけたり、オンプレミスからパブリッククラウドへの移行計画などの策定が容易になるという。

 今後はAWS(Amazon Web Services)やMicrosoft Azure、Google Cloud Platformなどの主要パブリッククラウドや、VMware製品が実装されている環境への展開を予定している。Tanzuプラットフォームはパブリッククラウド上のコンテナアプリケーションも含めた統合開発・管理環境を目指す。

 ヴイエムウェア ストラテジックアライアンス本部長の名倉 丈雄 氏は「当社はこれまでの20年サーバーの仮想化をはじめIT環境を変革してきた。Tanzuプラットフォームにより今後20年間のビジネスITに求められる環境を提供していきたい」とし、VMware自身にとっても大きな変化点にあると説明した。