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資生堂、人とロボットが協働する次世代ものづくりに挑戦中
1872年創業と約150年の歴史を持つ化粧品メーカーの資生堂が、人とロボットが“協働”する生産現場の構築に取り組んでいる。同社生産部長の大前 勝己 氏が都内で2020年2月19〜20日に開催された「Manufacturing Japan Summit 2020」(主催:マーカスエバンズジャパン)に登壇し、資生堂の次世代ものづくりについて語った。
資生堂の売上高は2018年に1兆円を超え、世界の化粧品業界を牽引している。工場など生産現場へのロボット導入はすでに当たり前であり、資生堂も約10年前から製造用ロボットを工場に導入してきた。
同社のロボット活用について生産部長の大前 勝己 氏は、「単純な繰り返し作業などの作業をロボットに代替させる。人間は人にしかできない作業を担当するのが基本方針だ」と話す(写真1)。
変化に柔軟に対応するために内製化を指向
資生堂は現在、世界11カ所に生産拠点を設置している。そのうち日本国内には、大阪、静岡・掛川、埼玉・久喜、栃木・那須の4カ所がある。2020年度中には大阪・茨木市に、2022年度中には福岡・久留米市に、それぞれ工場を新設する計画だ。大前氏は、「工場の新設に加え、既存の国内工場にロボットを導入するべく投資している」とする。
各工場は生産する商品が異なり、工程にも、それぞれの特性がある。たとえば久喜工場は、シャンプーやコンディショナーなど、「構成部材が少なく組み合わせが単純で大量生産するパーソナルケア商品」(大前氏)を扱っている。これに対し大阪工場では、単価1万円以上の高額商品を含むスキンケア商品を生産しており「多品種で複雑な工程を持つのが特徴だ」(同)。掛川工場はメイクアップ商品を生産しており「商品数は少ないものの複雑・繊細な工程が多い」(同)という。
同社がロボットを最初に導入したのは久喜工場。導入に当たってはまず、人にしかできない作業とロボットに置き換えられる作業を分類した。人にしかできない作業は、人間の判断が必要な作業や検査、管理作業などが該当した。一方でロボットに置き換えられる作業は、単純な繰り返し工程と、重労働の作業、複雑・繊細な工程だった。
久喜工場での導入時のポイントは「生産ラインが常に変化することを念頭に置いたこと」(大前氏)である。化粧品市場では、半年に1回のサイクルでデザインが変わる。デザインがあまり変わらないトイレタリー商品でもサイズが変化することもある。また新たなプロモーションを実施するため、容器にポップレーベルを貼るといった作業が発生する。こうした商品変更に柔軟に対応できることが重要だった。
柔軟性を確保するために資生堂は、内製チームを作ることで工程の変化に対応できるようにした。というのも「過去、設備の自動化において、製品やオペレータ−、生産数量の変化に対応できず挫折した経験があった」(大前氏)からだ。内製チームは「ロボットと設備の組み合わせをリアレンジする生産技術力と、ロボットを発想豊かに柔軟に使いこなす現場力にこだわった」(同)という。
2014年から導入を再加速
その後、資生堂におけるロボット導入はいったん「中だるみの状態になる」(大前氏)。その要因は2つある。1つは費用対効果が出なかったこと。「当時のロボットは高価で、かなりの工数を削減できないと効果は出なかった」(大前氏)。もう1つは、人間の3倍以上のスペースがロボットに必要だったこと。「人を前提に設計された工場に十分なスペースがなかった」(大前氏)。
それが2014年に入るとロボットの導入が再び加速し始める。きっかけは「インバウンド需要で売り上げが大きく伸び始めたこと」(大前氏)だ。資生堂の化粧品は中国国内でも人気が高い。訪日した中国人が帰国後に資生堂の化粧品を買い求めたりする。そのニーズに応えるために、日本側でも工場の生産能力を高める必要があった。
そこで、新たに掛川工場へロボットを導入することにした。掛川工場の主力商品であるメイクアップ化粧品の生産は、「久喜工場よりも小ロット多品種生産で複雑・繊細な工程が多く、より厳しい条件があった」(大前氏)。
たとえば口紅は、ブランドによって形状が異なるし、同じブランドでも季節によって容器や口紅の形が変わる。「赤い口紅といっても20〜30種類ぐらいの商品がある」(大前氏)ほどだ。生産量も、発売当初は多いが、時間が経過すると急激に少なくなる。そのためリニューアルを半年に1回の頻度で実施する。生産現場は「常に生産速度を上げながら小ロットへ対応することが求められる」(同)ことになる。