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2023年、24年に向けた企業アプリケーションの状況、ガートナー ジャパンが厳しい予測

DIGITAL X 編集部
2020年3月31日

今後3~5年に企業アプリケーションが置かれる状況を、調査会社のガートナー ジャパンが予測した。デジタルトランスフォーメーション(DX)の進展を背景に、抜本的な取り組みの見直しが求められるとし、厳しい見方になっている。2020年3月27日に発表した。

 ガートナー ジャパンが発表したのは『企業のアプリケーションに関する2020年の展望』。デジタルトランスフォーメーション(DX)に象徴されるデジタルテクノロジーの活用が進むことを前提に、CX(カスタマー・エクスペリエンス)、開発主体、管理系ERP(統合基幹業務システム)の使い勝手、およびシステム全体のアーキテクチャーの4点について、企業が置かれる状況を予測している。

 各領域におけるガートナーの予測と、その理由は以下のとおり。

CX(カスタマー・エクスペリエンス)に関する予測

「2023年までに、デジタルテクノロジーによるカスタマーエクスペリエンスの向上を目指す国内の大企業の80%以上は、既存のアプリケーションやデータの在り方について抜本的な見直しを迫られる」

 CXは、対顧客向けアプリケーション/サービスにおいて競争力を左右する重要な機能だ。より良いCXの提供においては、「顧客からのフィードバックを反映した継続的な改善が必要になり、そのために複数システムのリアルタイム連携や、既存ビジネスプロセスの見直し、システム内のデータを組み合わせて集計・分析できる仕組みなどが求められる可能性がある」(ガートナー)。

 しかし既存の企業アプリケーションの多くは、上記のような利用方法を想定しておらず、CXのための改善が「大規模な追加開発や運用変更を求め、多くの時間と労力を必要とする」(同)ことになる。

 さらにガートナーは、CX向上を戦略的課題としている企業におては「改善案の早期実現を優先するあまり、場当たり的な対応を繰り返すことでシステムはいっそう複雑化し、変化に対応できる柔軟性はさらに低下し、CXの向上も限定的になってしまう」可能性が高いとしている。

開発主体に関する予測

「2023年までに、大企業ではエンドユーザーによるアプリケーション開発 (市民開発) のニーズが高まるが、ガバナンスの仕組みにまで手が回らず、ガバナンスの効いた市民開発を実現できるIT部門は20%にも満たない」

 業務の自動化を進めるためにRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の導入が進むが、RPAが適用できない領域では、簡易なローコード開発ツールやExcelなどのデータをデータベース化するツール類が採用され始めている。結果、企業のアプリケーション開発の内製化やビジネス部門によるアプリケーション開発の外注といったケースが増えている。

 そのとき、IT部門には、「システム開発・実行環境の準備や、既存システムとの連携、実装・運用上のルール設定などが求められ、ガバナンス業務の責務も増大する」(ガートナー)とみられる。ただIT部門は「人材不足や既存業務への対応に手一杯でガバナンスを効かせることが難しく、属人化したアプリケーションが乱立する状態に陥りかねない」(同)としている。

管理系ERP(統合基幹業務システム)の使い勝手に関する予測

「2024年までに、大企業の8割は、管理系ERP機能の導入プロジェクトにおける提案依頼書 (RFP) の中でユーザー・エクスペリエンスの改善を最も重要な評価項目の1つに設定するようになる」

 管理系とは、会計、人事・総務、調達などの業務アプリケーションを指す。同系ERPの導入では、「機能/非機能要件の充足性、実績、価格などの評価に重きが置かれており、エンドユーザーのエクスペリエンス(使い勝手)は優先度が低いの一般的」(ガートナー)だった。

 しかし今後、デジタルネイティブな世代の従業員が増えたり、逆にシニア層や何らかの障害を抱える従業員へのサポートも必要になる中では、「直感的かつアップデートにより自動的に進化する」(ガートナー)ような使い勝手が管理系業務においても、ますます重要な課題になると予測する。

システム全体のアーキテクチャーに関する予測

「2023年までに、マイクロサービスの適用を検討する企業のうち、アジリティやスケーラビリティをマイクロサービスで実現する必要性をビジネスの観点から説明できる企業は、1割にも満たない」

 システムの柔軟性やデリバリ期間の短縮を重視するなかで、アプリケーション開発にマイクロサービス・アーキテクチャーを採用するケースが増えている。しかし推進派の中には「標準化という考えの下、すべてのアプリケーションにマイクロサービスを適用しようとする傾向が見られ、既存アプリケーションの見直しではモジュール分割が容易ではない事例が散見される」という。

 俊敏性やスケーラビリティを実現するマイクロサービス・アーキテクチャーではあるが「多くの企業は、ビジネスとして何が求められているのかを明確にできず、マイクロサービスを適用する正当性を説明できないか、適切な効果が得られない」とガートナーは予測する。

 いずれの予測も、既存のITシステムが大きければ大きいほど困難を伴うものだとの指摘だ。こうした予測について、ガートナー ジャパンのアナリストでシニア ディレクターの飯島 公彦 氏は「デジタルテクノロジーをビジネスに適用するためのアプリケーションにおいては、CXの提供を軸にした変革が迫られる。今後は、社内向けアプリケーションであっても、顧客に提供するビジネス価値を考慮する必要がある。しかし、多くの企業では、この認識が希薄であり、スキル不足、リソース不足への対処も十分ではない」と語っている。