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Wi-Fi利用状況にみる新型コロナによる各国の在宅行動、英Opensignalが調査

指田 昌夫(フリーランス ライター)
2020年4月28日

「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への感染拡大防止に向けた在宅でWi-Fi利用が増加。4Gの速度も低下」――。こんな調査結果を英国に本社を置くモバイルネットワークの調査会社Opensignalが発表した。各国のモバイルユーザーのWi-Fi利用度が2020年の初めからどう変化しているかを週単位に調べたもの。外出規制に伴いWi-Fiの利用度が高まっている。並行して国内携帯3キャリアのユーザー体感度も調査した。

 英Opensignalはモバイルネットワークの調査会社。複数のモバイルキャリアを同時に調査し、実際のアプリケーションを使った際の快適さなどを利用者目線で評価する。調査機関としての独立性を重視し、スポンサー付きの調査は一切請け負わないという。

 調査は、独自開発した専用アプリケーションのスマートフォンへのインストールを依頼し実施する。専用アプリは、使用場所や通信速度、利用したアプリの応答速度などを収集し、Opensignalのサーバーへ送信する。データには、自動的に収集される項目と、利用者が操作して集める項目がある。

 Opensignal分析担当バイスプレジデントのイアン・フォッグ氏は、「全世界で実際に使用されている何百万というモバイル端末から何十億というデータを集め分析し、エンドツーエンドのCX(顧客体験)を明らかにする。客観性を維持するため、分析手法はすべての調査対象国で一貫しており当社Webサイトに公開している」と説明する。

平時のWi-Fi利用は平日昼間は減り、週末に増える

 Opensignalは現在、新型コロナウイルスの感染拡大に伴うモバイルユーザーの利用度の変化を調査している。2020年1月の第2週目に開始した。

 フォッグ氏によれば、社会が通常の状態でのWi-Fi利用は、「平日昼間は外出している人が多くWi-Fi利用が減少する。週末は在宅が増えWi-Fiの利用度が上がる」。しかし昨今の在宅状態が続くなかでは、「そうした差がなくなりWi-Fi利用が常に多くなると推定される」(同)という。

 実際、2月末までには、香港、シンガポール、台湾、韓国などでWi-Fiの利用増が確認された(図1)。これらは政府が早期に対策を打った地域と一致する。3月半ば頃からは、全世界で外出規制が進んでおり、Wi-Fiの接続時間が長くなる国が増えている。

図1:2020年1月以降の世界のWi-Fiの利用状況の変化(出所:英Opensignal)

 これに対し日本では、3月末まではWi-Fiの使用時間に変化は見られない。「緊急事態宣言」が出されたのは4月8日だから、3月までは在宅率が低かったことの表れかもしれないが断言はできない。

 3月に感染者数が爆発的に増加したイタリアでは、「政府が移動制限を発令する前から、すでに感染拡大が進んだ地域の住民が自宅待機する行動を取っていたことがデータからわかる」(フォッグ氏)という。

 Opensignalは4G回線の利用状況も調査している。Wi-Fi利用が増えれば、その分4Gの速度は上がると見込まれる。だが、国による違いはあるが、3月末までの全体の傾向としては4Gの速度は低下した。この現象についてフォッグ氏は、こう分析する。

 「コロナを機に多くの国でキャリアがデータ通信の無償提供を始めたため回線が混雑し速度が落ちたとみられる。昼夜を問わず自宅でゲームをするなど、通常とは異なる利用パターンがネットワークに負荷をかけている」

 4G回線への負荷が増えていることから、国によっては回線容量の増強などを図っているという。フォッグ氏は「日々変化が起きており、状況は流動的だ。週単位の変化だけから今後の推移を読むのは難しい。引き続き状況を注視していく」と語る。

国内モバイル通信3社の強みと弱みを33万台の端末から調査

 新型コロナの影響調査とは別にOpensignalは、日本のモバイル通信キャリアについても調査している。2019年12月から2020年2月までの3カ月間に、約33万台のデバイスから得た22億件のデータを収集し分析した。その結果を『モバイル・ネットワーク・ユーザー体感レポート2020年4月版』として発表した。

 同社の調査結果は、「NPS(ネットプロモーターズスコア)に強い影響力があり、多くの国で通信行政の監督官庁でも採用されている。消費者のキャリア選択時の指標の1つにもなっている」(フォッグ氏)という。

 ユーザー体感レポートの主な調査項目は7つ。(1)ビデオの品質・体感、(2)音声アプリの品質・体感、(3)ダウンロードの速度、(4)アップロードの速度、(5)遅延時間、(6)4G回線の利用率、(7)4G回線のカバレッジである。

 調査方法はすべて公開されている。たとえばビデオのユーザー体感は、ITU(国際通信連合)の基準に基づいたデータを実際にビデオストリーミングでデバイスに送信し、その再生状況を測定する。

 調査の結果は図2の通りだ。NTTドコモがダウンロード、アップロード、4Gのカバレッジで優位に、ソフトバンクがビデオのユーザー体感と遅延時間で優位だった。au(KDDI)は4Gの利用率で優位だった。音声アプリの体感は、ドコモとソフトバンクが同率でauより優位になっている。

図2:日本の3モバイルキャリアのユーザー体感調査の結果(『モバイル・ネットワーク・ユーザー体感レポート2020年4月版』、英Opensignal)

 モバイルゲームの体感も調べている。調査対象100カ国において日本は3位である。フォッグ氏は「世界各国と比べ総じてトップクラスだが、1位ではない」とした。総合トップは、ネットワーク環境が先進的な韓国である。ゲームについては、各国で少人数のゲームユーザーが実際にプレーし、その測定値から総合的に判断している。

 これらの結果について、実際に利用者がキャリアを乗り換えるほどの差であるのかを質問したところ、フォッグ氏は「長年の調査実績から得られた客観的なデータに基づく結果であり、それぞれ、しっかりとした差があると認識している。たとえばダウンロード速度を重視するのならドコモが最も優れていると言える。しかし利用者がキャリアを決める要因はさまざまだ。これらはその選択肢の1つだ」と答える。

 また日本でもサービスが始まった5Gについては、「今後調査を始める予定だが、当面は4Gの時代が続くとみている。現在の5Gは『ノン・スタンドアロン・アクセス』であり、4Gのネットワークが存在するエリアでなければ利用できない仕様だからだ。実際のユーザー体験は4Gのネットワークが決めることになる」(フォッグ氏)とした。