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AIがビジネスに浸透しない3つの理由、分析の前後のプロセスが重要に

指田 昌夫(フリーランス ライター)
2020年5月11日

大量のデータを分析してビジネスに生かそうとする取り組みが活発化している。 だが現実は、AI(人工知能)をビジネスの現場で十分に利用されているとは言いがたい。AIブームに乗って多くのプロジェクトが立ち上がるものの実際にビジネスに生かされている例はまだ少ない。その理由をAIのプラットフォーム製品を提供するDataRobot Japanのチーフデータサイエンティスト、シバタアキラ氏が指摘した。

 企業のAI導入と活用に関するいくつかの調査によれば、グローバルに活動する日本の大企業の大半がAIに積極的で、すでに80%がAI導入に着手している。だが、AIを実運用できている企業は52%に留まり、さらに継続的に運用監視できている企業になれば、わずか1%しかないという。

 その理由を企業向けのAIプラットフォームを提供する米DataRobot日本法人のチーフデータサイエンティストであるシバタアキラ氏は、「AIプロジェクトに初めて取り組む企業がほとんどで、テーマ出しからモデル構築と検証、ビジネスへの適用までの長いプロセスの過程でつまずくことが原因だ」と指摘する。

 具体的には3つのボトルネックを挙げる。(1)技術習得が難しい=社内でデータサイエンスに長けた人材の育成が難しい、(2)ビジネスと結び付かない=ビジネス課題のどこにAIを使えば良いのかを判断できない、(3)プロジェクトの推進方法が分からない=AIのプロジェクトを進める体制が不明瞭で管理体制もない、である(図1)。

図1:AIがビジネスに浸透しない理由

 特に2番目のビジネス課題とAIの関係の見極めが大きな問題点だとシバタ氏はいう。「すべての業務がAIによって改善するわけではない。どこに使えばいいのかを見極め、技術とビジネスをどうつなぐかがプロジェクトの成否を分ける」(同)からだ。

AI分析の前後で必要な機能までを提供

 米DataRobotは、データ分析コンペ「Kaggle(カグル)」でトップの成績を収めたデータサイエンティストらが「誰もがAI分析に取り組める環境を提供する」ために2012年に創業した。では、その「誰もがAI分析に取り組める環境を提供する」ためにDataRobotは、どんな環境を用意できるというのだろうか。

 シバタ氏は「AIの自動化のほか、分析の前段階で必要なデータ準備や格納、分析後にビジネス価値を生み出すためのインタフェースなど、AIに関するシステムをエンドツーエンドで提供する」と説明する(図2)。

図2:DataRobotはAI分析の前後のプロセスまでをカバーする

 AI自動化では新たに、画像分析を自動化する「Visual AI」を発表した。データ分析の変数に、数値やテキストといったデータに加え、画像そのものの特徴を使えるようにした。人が画像から判断することが多いように、AIの分析にも画像を使うことは自然な流れだろう。

 だがDataRobot Japanプロジェクトマネージャーの小幡 創(はじめ)氏は、「さまざまな画像認識技術が開発されているが、分析にはディープラーニングの知識や、分析モデルを訓練するための大量の画像データも必要になる。すべての企業が簡単に画像分析を使いこなすまでには一般化していない」と言う。

 Visual AIでも高度なディープラーニングの技術を使っているが、利用者自身は、その存在を気にする必要がないという。分析モデルへの画像の取り込みもドラッグ&ドロップで操作できる。

 分析にあたってAIが画像のどこに着目したのか示す機能もある。分析結果にAIが注目した箇所をハイライトして記録することで、中身がブラックボックス化し「なぜそうなるのか」の説明ができなくなることを回避する。分析の過程でも、利用者は分析の特性を理解したうえで結果の良否を判断することもできる。

 一方、分析の前段階で必要なデータの準備に対しては、データ準備特化ソフトウェアベンダー「Paxata(パクサタ)」を2019年に買収し、DataRobotの機能と統合した。

 生データに含まれる表記の揺れや異常値を抽出し、整形・統合するにはこれまで、数分で終わる分析のために数十時間かかるケースも多かったという。そうしたAIのために必要なデータ準備をPaxataは自動で実行する。「業界固有のデータを処理する能力が高い」(シバタ氏)という。

 分析後のインタフェースとしてDataRobotが用意するのが「AIアプリケーション」だ。DataRobotのエンジンを意識することなく簡単な操作でAI分析が実行でき、結果を意思決定に生かせるという。

 小幡氏は、「これまでのAIソフトウェアは分析モデルの開発に集中していた。結果、分析結果をビジネスユーザーがすぐに使えず、現場がわかりやすい画面を作るためのつなぎ込みが必要だった」と話す。AIアプリケーションには現在、「予測実行」「What-If」「最適化」の3つがある。

ポストコロナ時代のAI活用を視野に

 新型コロナウイルス(COVID-19)対策にとしてオンライン会議などの利用が広がっている。感染拡大が収束した後の社会では、ビジネスのインターネットへの依存度は、さらに大きくなることが予想される。そこではIoT(Internet of Things:モノのインターネット)によるセンサーデータや、スマートフォン用アプリケーションから得られる人々の行動データなど、大量データの分析力が企業の業績に直結することになるだろう。

 その際、データを分析し自動処理するためにAIは欠かせないはずである。ポストコロナ時代のビジネスを視野に、シバタ氏がAIがビジネスに浸透しない理由だと指摘する3つ課題解決を急ぐ必要がありそうだ。