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製造業のDXで見落とされる設計・調達業務をカバーするマーケットプレース、NTTコムとPwCが構築へ

指田 昌夫(フリーランス ライター)
2020年5月12日

NTTコミュニケーションズが製造業のためのデジタルマーケットプレースをPwCコンサルティングとの協業で展開する。2020年7月から実証実験を開始する予定で、2021年3月までの商用化を目指す。なぜマーケットプレースなのかについて両者が2020年4月27日にオンライン会議で説明した。

 大手、中小を問わず、日本の製造業では働き手不足が大きな問題になっている。ベテラン技術者の高齢化による技術伝承の問題や、3D(3次元)CAD(コンピューターによる設計)などを扱う高度な設計技術者の不足、製造現場の人員不足などが問題視されている。

 そのためもあり、製造業のデジタル化と言えば、上記のような開発や製造現場でのテクノロジー利用に焦点が当たっていた。結果、IoT(Internet of Things:モノのインターネット)やAI(人工知能)などの導入も一部で始まっているものの現場のリソース不足を補い切れていないのが実状だ。

自社ですべての機能を運用することは限界に

 さらにNTTコミュニケーションズ(NTTコム)でスマートファクトリー推進室の室長を務める赤堀 英明 氏は、「設計や調達に関してもデータ活用が進まず、非効率な業務が多い」と指摘する。

 具体的には、たとえば設計担当者は、発注時に3D図面だけで表現できない情報があれば平面図面も書き起こさなければならない。調達業務では、メーカーの調達担当者は、複数のサプライヤーに相見積もり依頼し、それらを収集・評価する作業に時間を取られている。受注側も大量に届く見積案件への対応に追われている(図1)。

図1:製造業における設計・調達プロセスにおける非効率な業務の例

 こうした背景には、「日本のメーカーは、これまでの成長の過程で、製造業としての全機能を自社内に抱え運用してきた」(赤堀氏)ことがある。人材が豊富なら、そうしたことも可能だが、リソースが限られてきた今となっては、同じ仕組みを継続するは難しい。

 しかし、NTTコムが実施した複数メーカーへのヒアリング結果からは、「同じ業界の製造業なら、設計と調達には共通化が図れる業務があることが分かってきた」(赤堀氏)という。「他社との差別化要素でない共通業務は業界全体でプラットフォームを作り、効率よく運用することで、競争力の源泉である自社のコアコンピタンスに、より多くの人材を投入できる」と赤堀氏は指摘する。

 そこでNTTコムは、設計・調達のためのマーケットプレースである「デジタルマッチングプラットフォーム」を自社のクラウド上に構築し、参加企業を募る計画だ(図2)。サービス構築に当たっては製造業の課題解決に実績を持つPwCコンサルティングと協業する。

図2:NTTコミュニケーションズとPwCコンサルティングが構築・提供する「デジタルマッチングプラットフォーム」の概念

過去の設計データを基に重複設計の防止や実績による見積もりを可能に

 PwCコンサルティングのディレクターである三山 功 氏は、「当社はデータ駆動型の製造業モデルの設計や、デジタル基盤によって複数企業をつないだバリューチェーンの構築などを支援してきた。それらの成果を投入し、発注側と受注側の双方にメリットがあるマッチングプラットフォームを作りたい」と語る。

 両社がデジタルマッチングプラットフォームで実現を目指す機能の1つが、発注者であるメーカーの設計部門に向けた「データカタログ」の提供だ(図3)。過去の設計データを蓄積しておき、新たな部品を設計する際は類似する構造を持つ部品データを検索・再利用することで、重複設計のロスを減らす。

図3:「デジタルマッチングプラットフォーム」が提供する機能

 3D設計図など製造に必要な情報は一括でクラウドに保存する。新規設計時の2D/3D図面や仕様書などを効率よく作成できるようになるという。調達担当者に対しては、組図から部品単位に自動展開できる機能や、過去に発注した部品であれば同じサプライヤーに発注できる機能などを用意する。

 一方、受注側のサプライヤー向けには、見積対象部品の3D図面をAIで解析し、過去の受注履歴から類似の部品を呼び出す機能を提供する。実績値を参照することで、見積もり作業をスピーディーに行える。発注側と同一プラットフォーム上で情報を共有することで、応札時の仕様確認や受注後の事務処理の効率化が期待できるとしている。

 デジタルマッチングプラットフォームのサービスは必要な機能だけを利用できるようにする。他社が提供する既存のマーケットプレースとも連携を図る。既存サービスをすでに利用する企業であれば、一部の機能を追加する形で始め、利用する機能を増やせるという。

実データ使う実証実験を2020年7月から開始の予定

 現時点では、発注者側へのヒアリングに基づいて機能が検討されているためか、発注者側の業務効率を高められる機能が中心であるとの印象が強い。今後は受注者である部品サプライヤーへのヒアリングも増やし、受注者側の業務効率を高める連携機能などの強化を図っていく。

 その一環として、2020年7月からは複数のメーカー/サプライヤーと協業し実データを使った実証実験を開始する予定である。過去データをクラウドに取り込みAIのための学習モデルを開発し、類似図面の検索機能などを検証する。2021年3月までに商用サービスとしての展開を目標にする。