• News
  • サービス

「独身の日」だけで4兆円を売り上げる中国アリババのクラウドインフラは日本に根付くか

指田 昌夫(フリーランス ライター)
2020年5月28日

中国では毎年11月11日を「独身の日」と銘打ってECサイトの大々的なセールが開催される。ECサイト最大手の中国アリババ(Alibaba)は2019年の11月1日だけで4兆円以上を売り上げた。そのアリババのネットビジネスを支えるインフラをクラウドサービスとして外部に提供しているのがアリババクラウド(Alibaba Cloud)だ。日本法人のAlibaba Cloud Japanが2020年5月、国内事業に関する説明会を開き、日本市場の重点分野と3つの新サービスを発表した。これらサービスは日本市場に根付くだろうか。

 中国の11月11日は「独身の日」と銘打たれ、ネットビジネスの大々的なセールが展開される。ECサイト最大手の中国アリババは2019年、独身の日だけで4兆円以上を売り上げるなど、中国以外では考えられない規模の取引が発生する。新型コロナウイルスの影響でリアル店舗からネットへの移行が急速に進んでいることもあり、2020年の独身の日の売り上げは前年を大幅に超えると予想される。

アリババの巨大ECのノウハウをクラウドにして提供

 そのアリババの膨大なネットトラフィックを支えるインフラやネットワークなどの運用技術をベースに、クラウドサービスとして外部に提供するのがアリババクラウド(Alibaba Cloud)だ。中国をはじめ日本を含むアジアや欧米などにデータセンターを設置し、各国の企業やオンラインゲーム会社にサービスを提供する。

 規模の拡大だけでなく、安全性の確保にも力を入れている。世界各地のセキュリティ基準に準拠し、10以上の安全機関の認定を受けている。ドイツではGDPR(一般データ保護規則)準拠のC5認定を世界で最初に取得した。

 日本では2016年からサービス提供を開始。日本語によるサポートデスクとドキュメントを提供し、毎年2倍以上の成長を続けている。国内に2つのデータセンターを設けてBCPに対応する。日本企業の利用データは「あえて希望しない限りは日本国内に保存され、海外に出ることはない」(日本法人Alibaba Cloud Japanカントリーマネージャーのユニーク・ソン氏)という。

 ナビタイム・ジャパンはAlibaba Cloudの利用企業の1社。外国人観光客が日本に来たときのナビゲーションアプリのインフラとしてAlibaba Cloudを使う。ニトリはECサイトにおいて、Alibaba Cloudの「イメージサーチ」機能を利用する。AI(人工知能)を使った画像識別・検索機能により、ニトリの従業員や消費者が、言葉では表現しづらい家具の色や形を画像で検索できるようにしている。

 キヤノンは海外ビジネスのインフラとしてアリババクラウドを使用している。日本企業が外進出時にAlibaba Cloudを利用するのは、日本や中国に加え、東南アジアなどに展開するデータセンターをつなぐ専用回線を持ち、遅延の少ない接続を実現できているからだという。

 最近では、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対応のための技術支援として、CT画像をAIで分析し病変の特定と面積を、20秒以内に計算するシステムを開発した。この仕組みは聖マリアンナ医科大学病院が利用している。

2億人のオンライン授業を支えるデータベース機能を投入

 Alibaba Cloud Japanが2020年、日本市場向け重点施策としては4つの領域を挙げる。「(1)従来から力を入れているインターネット業界/ゲーム業界などの新興企業に対しての取り組み強化、(2)日本の大企業への個別開発、(3)海外進出している日本企業のグローバルITインフラの支援、(4)東京オリンピック公式スポンサーとしての活動」(ソン氏)だ。

 そのためにAlibaba Cloud Japanは、新たなクラウドサービスを投入する。同社シニアソリューションアーキテクトの奥山 朋 氏は、「大規模なサービスの運用実績に裏付けられた高い処理性能と、中国や世界各地域との接続性、そしてセキュリティをポイントに3つの製品を投入した。日本企業の要望に、さらに高いレベルで応えられる」と話す。

「PolarDB」

 Alibaba Cloudが独自開発したデータベース管理システムである。従来のデータベースを簡易かつ大規模に使えるように、処理とデータを分離することで拡張性を大幅に高めた。最新の「NVMeメモリーインタフェース」で運用することで高速処理を実現している。

 同社自身の調査では、他社のクラウドサービスと比べ2倍以上速く、オープンソースの「SQL-DB」と比べると6倍以上速い測定結果が出ているとする。突発的なアクセス増加に備える性能拡張が15分以内で実行できるともしている。既存DBや既存アプリケーションとの互換性も確保されている。

図1:「PolarDB」の導入事例

 PolarDBは、海外ではすでに導入が始まっている。たとえば中国では、2億人の生徒が学ぶオンライン初等教育プラットフォームに採用されている。授業がある日中は利用量が非常に多いのに対し夜間はアクセスがほとんどなくなるため、日中のピーク時に合わせた契約では、夜間は無駄にコストをかけていることになる。これをPolarDBに変更し、時間帯ごとにスケールを拡大・縮小することで、トータルの運用コストを最大70%削減できたという。

 アジア地域の巨大ECサイトでは、1万以上のデータベースと8テラバイトのミッションクリティカルなデータを抱えており、商用DBMSソフトウェアのライセンス料が高いことが課題だった。アプリケーションの互換性をチェックしたところ96.2%の互換性を確認できたことから商用DBMSをPolarDBに置換し、ライセンスコストを大幅に削減した。

ウェブアプリケーションファイアウォール(WAF)

 従来、WAFはシンガポールにあるサーバー経由での利用だった。そのため日本国内の運用では遅延が問題になっていた。国内のサーバーでWAFを運用することで、遅延時間は4分の1に減少した。

図2:「ウェブアプリケーションファイアウォール(WAF)」の導入事例

 Alibaba CloudのWAFはビッグデータ分析による振る舞い検知機能を持っている。LCCのエアアジアは、オンラインチケットの提示価格を外部の格安チケット会社などに読み取られ、正規の価格で売れるチケットが減少する事態になっていたが、振る舞い検定によりクローラーの挙動を判別し、データの抜き出しを遮断できたという。

「グローバル・アクセラレーター(GA)」

 Alibaba Cloudが保有する広帯域のバックボーンと各国に用意された接続先(POP)を利用できるネットワークサービスである。利用したい場所に最も近いPOPにつなぐことで、現地の商用サービスや海外拠点と日本の間の高速ネットワークを構築できる。低遅延や低ジッタが特徴で、国内外をつなぐWeb会議においてコミュニケーションがスムーズになるという。

図1:「グローバル・アクセラレーター(GA)」の導入事例

 グローバル・アクセラレーターは、中国において発生する政治状況によるネットワーク品質の低下や遮断といったリスクも回避できる。「中国政府が正式に認めたサービスのため、遮断などがなく安定した通信を確保できるメリットがある」(奥山氏)とする。

 このようにAlibaba Cloudは、中国やアジア諸国とのビジネス連携を強化したい企業にとっては有効なクラウドかもしれない。日本では、ソフトバンクグループのSBクラウドをはじめ、大手コンサルティング企業や野村総合研究所、電通国際情報サービス、日鉄ソリューションズなどのシステムインテグレーターがパートナー企業として導入を支援している。