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公開期限が迫る銀行API、金融機関の負担増にらみ日本IBMが仕掛けるクラウド移行

指田 昌夫(フリーランス ライター)
2020年7月15日

金融業界のデジタルトランスフォーメーション(DX)をうながす策の1つとして金融庁が各行に公開を求めるのが銀行API(アプリケーションプログラミングインタフェース)。2020年5月までだった期限は新型コロナの影響で9月末まで延長されているものの、残り時間はわずか。公開後も金融機関には銀行API運用の負担が続く。ここを起点に日本IBMが仕掛けるのが、金融機関のパブリッククラウドシフトである。

 全国の銀行が今、公開を進めているのが銀行API(アプリケーションプログラミングインタフェース)である。金融庁が、金融サービス変革の柱に位置づけ公開を推進してきた。当初期限は2020年5月末。新型コロナの影響で9月末まで延長されたものの、残る期間は限られる。

 銀行APIへの期待が高いのは、金融サービスのイノベーションを加速するとみられているため。APIを経由し、銀行同士や、銀行とFintechベンチャーなどのサービスがダイレクトにつながれば、銀行は外部サービスを組み合わせた新規サービスの提供が、Fintechベンチャーは銀行機能を組み入れた金融サービスの提供が、それぞれ容易になる。

銀行APIの開発・運用が金融機関のコスト負担増に

 だが課題もある。銀行APIを公開するには、銀行の基幹をなる勘定系システムとデータをやり取りするためのソフトウェアを開発する必要がある。銀行の心臓部にある勘定系に関わるため、大がかりな開発になる。これらソフトウェアを外部から利用可能にするのがAPIだ。

 さらに、勘定系システムを更新したり仕様を変更したりすれば、連携するソフトウェアやAPIも作り直さなければならない。銀行にとってAPIの開発と運用は、かなりの負担になる可能性がある。

 APIの開発費は、銀行の規模にかかわらず一定額がかかる。メガバンクなど顧客数が多ければ、顧客サービス向上策として顧客1人当たりのコストは下がるが、顧客基盤が小さい地銀などによっては、その負担が大きくなる。

 また、APIを利用する事業者に対し、利用料を求める銀行が大半だが、そこにも問題はある。残高照会や取引履歴を取り出すだけの参照系のAPIでは、顧客にサービス利用料を転嫁できない(残高照会だけなら無料)ため、API利用料としても回収はできないという見方がある。

API機能をプラットフォームが吸収

 こうした課題に対し、日本IBMが用意するのが、「金融サービス向けオープンソーシング戦略フレームワーク」だ(図1)。それを実現するマネージドクラウドサービス「業界共通デジタルサービスプラットフォーム(DSP:IBM Digital Service Platform for Financial Services)」を2020年6月中旬から提供し始めた。

図1:「金融サービス向けオープンソーシング戦略フレームワーク」の概念

 DSPは、金融機関が銀行APIを公開するに当たって必要な勘定系システムにアクセスするためのソフトウェアをIBMが開発し、APIを含めて実装したプラットフォーム。2020年6月時点で81のAPIを実装済で、2021年3月までに181のAPIを実装する予定である。

 更新系の銀行APIの開発においてもDSPでは、更新系処理に必要なトランザクション管理(二重処理の防止、整合性の確認、再処理など)機能や、二要素認証・通知・リスクベースによる挙動制御といった不正取引抑止機能を提供できる。これら機能を含めて銀行自身がAPIを開発するよりも速く、安価に実現できるという。

 日本IBMの代表取締役社長の山口 明夫 氏は、「金融機関が必要な機能を検討し続け、当社が出した結論がDSPだ。開発効率を大幅に改善でき、金融機関はデジタル変革に集中できると確信している。トライアルでは開発コストは40%削減できた」と説明する(写真1)。

写真1:日本IBM 代表取締役社長の山口 明夫 氏

 さらに山口社長は、「この先にあるのは、金融機関におけるパブリッククラウドの活用だ。もちろん、セキュリティ要件や制度対応などの課題をクリアする必要がある。今回、IBMのパブリッククラウド事業のトップに米バンク・オブ・アメリカの前CTO(最高技術責任者)が就任した。経験も知識も非常に豊富なリーダーだ。堅牢で利便性の高いパブリッククラウドを提供できると期待している」と語る。

 日本IBMは2020年7月1日、みずほフィナンシャルグループ(FG)との合弁事業を開始したところ。みずほFGのシステム運用会社である、みずほオペレーションサービスの株式の65%を日本IBMが取得し、みずほFGグループのシステム運用を担う。サービス品質を維持しつつ、AI技術の「Watson」を使った運用技術を使い、業務の自動化・効率化を進めるという。

 DSPやWatsonが日本の金融機関のDXをどれだけ加速するのかを注視したい。