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パーソナルヘルスレコード(PHR)を扱うためのリファレンスアーキテクチャー、日本マイクロソフトとTISが提供

野々下 裕子(ITジャーナリスト)
2020年7月17日

健康や医療、介護に関する情報を一元管理し、本人が閲覧できる「PHR(パーソナルヘルスレコード)」。同データに基づく新たなビジネスやサービスの開発競争が激化している。そうしたなか日本マイクロソフトとTISが連携し、PHRなどを扱えるヘルスケア業界特化のクラウドベースの技術基盤「ヘルスケア リファレンス アーキテクチャー」の無償提供を開始した。2020年7月8日の記者発表会では、ヘルスケア業界のデジタルトランスフォーメーション(DX)推進を強調した。

 医療/ヘルスケア業界では、通院から診察内容、薬の服用や予防注射の摂取など個人の健康や医療に関する多種多様な情報が多数発生する。これらを一元的に管理し、本人が自由にアクセスできるようにするのが「PHR(パーソナルヘルスレコード)」の考え方であり、そのための仕組みである。

PHRを活用したさまざまな応用が可能

 PHRには、これまで紙の書類や手帳で記録されていた医療関連情報だけでなく、スマートフォン用アプリケーションや、ウェアラブル機器などから収集される、さまざまなデータが含まれる。その活用範囲は幅広い。治療アプリの開発や、病気になる可能性を予測するサービス、体調に合わせた食事メニューの提供など、さまざまな応用が考えられている。

 さらに、受診や服薬、健康診断などの記録を、地域や他の医療機関と共有・運用するEHR(Electronic Health Record)とも連携し、医療全体の質の向上や、健康維持による医療コスト削減などにつなげる狙いもある。

 厚生労働省を中心とした「国民の健康づくりに向けたPHRの推進に関する検討会」は2020年6月、第2回の検討会において、本人がPHRを閲覧・管理できる仕組みの構築を急ぐことを決めた。ただ膨大なデータを管理するための国としてのガイドラインは現時点では定まっていない。先行してPHRの活用を始めている事業者が独自にガイドラインを作成し、利用データの標準化を進めている。

 PHRの現状について、発表会に登壇した九州大学病院メディカル・インフォメーションセンター センター長の中島 直樹 教授は、「PHRを有効活用するにはガイドラインの標準化が必須だ。行政主導で、ある程度進んでいるが、学会や民間でも動きがある。統一するには、ここ数年がチャンスだ」と指摘する。

 併せてPHRデータの2次利活用やPHR機能の高度化を想定した対応も求められる。「ヘルスケア業界にIT業界の標準的な技術が導入され“社会インフラ”として定着した上で標準化されることを期待する」(中島氏)という。

 こうしたなか、日本マイクロソフトとTISが、ヘルスケア分野に特化したクラウドベースの技術基盤「ヘルスケア リファレンス アーキテクチャー」を開発し、パートナー企業に向けて無償提供を開始した(図1)。

図1:日本マイクロソフトとTISが策定したヘルスケア リファレンス アーキテクチャーの概要

 ヘルスケア リファレンス アーキテクチャーは、ヘルスケア関連サービスの開発に必要なシステムの共有部分を定型化したもの。PHRが求めるセキュアでガイドラインに沿ったシステム開発において、開発期間の短縮や運用コストの削減などが期待できるとする。

 日本マイクロソフト 業務執行役員 医療・製薬営業統括本部長の大山 訓弘 氏は「ヘルスケア領域において当社は、医療現場の改革、医療の質における地域格差などを解消する均てん化、ヘルスケア連携の3つに取り組んでいる。より良い医療のかたちとして、人の一生に寄り添うデジタルヘルスケアを目指している」と話す。

 たとえば米Microsoftが2020年5月に発表した「Microsoft Cloud for Healthcare」が、その一例。Microsoft 365とMicrosoft Azureをベースに、患者との関係構築や医療チームのコラボレーションを強化するための機能を集約し提供する。リファレンスアーキテクチャーとしてはこれまで製造業や流通業に向けを提供してきた。ヘルスケア業界向けの提供は、日本では今回が初めてになる。

テンプレートや技術者育成策も用意

 ヘルスケア リファレンス アーキテクチャーを使い、PHRを利用するビジネスやサービスの開発をうながすために、業界や学会側が定める標準化ガイドラインを参照したテンプレートを無償提供するほか、サンプルプログラムをオープンなソフトウェア開発基盤サービス「GitHub」上で公開する。技術者育成のトレーニングプログラムも無償で用意する。

 これらは主にTISが用意する。まずテンプレートとしては、TISが展開する医療や健康情報をオープンに扱うための「ヘルスケアプラットホーム」から、PHRに関する部分を「PHR POC(Proof of Concept:概念実証)」を提供する(図2)。

図2:TISが提供するPHR POCのテンプレートの内容

 サンプルプログラムは、臨床学会による生活習慣病コア項目セット集や、経済産業省が策定を支援した「健康情報等交換規約書定義書」など。現時点で定まっている標準化ガイドラインを参照している。

 今後は、厚労省や、総務省、経産省が掲げるガイドラインへの準拠や、クラウドセキュリティのための「CSゴールドマーク認定」、医療データの国際標準規格「HL7 FHIR(Health Level 7・Fast Healthcare Interoperability Resources)」なども参照し、グローバルでの利用も可能にする。

 TISの執行役員でサービス事業統括本部ヘルスケアビジネスユニット ジェネラルマネージャーの伊藤 浩人 氏は、「PHR取り扱いの標準化が重要なことは、新型コロナウイルスへの対応でも顕在化した。日本マイクロソフトとの連携で社会課題の解決につなげたい」と話す。

 PHRの活用には、クラウドサービスを基盤に、同基盤が提供するAI開発ツールを使ったデータ分析がなされると見込まれている。それだけにAmazon.comの「AWS」やGoogleのGoogle Cloud Platformなどもヘルスケア業界へのアプローチに力を入れている。これからますます競争が激化する中で、どのようなソリューションが提案されるのか注目していきたい。