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ヤフーの企業向けデータソリューションにAPI連携が追加、将来は企業内ユーザー数を無制限にも

指田 昌夫(フリーランス ライター)
2020年12月2日

ヤフーが2019年10月から提供している「ヤフー・データソリューション(DS)」事業。2020年11月5日からはAPI(アプリケーションプログラミングインタフェース)連携サービスを開始している。同社の各種サービスを利用する8000万ユーザーの行動に基づく統計データを利用できる。

 ヤフーが2020年11月5日に開始した「DS.API」は、同社が提供する「データ・ソリューション(DS)」事業において、各種データをAPI(アプリケーションプログラミングインタフェース)を介して利用可能にするサービスだ。

 テクノロジーグループデータ統括本部 データソリューション事業本部長の谷口 博基 氏は、「APIを使って、すでに使っているBI(ビジネスインテリジェンス)ツールや企業内の各種アプリケーションと連携させることで、企業のデータ分析に新しい気づきを提供できる。企業が提供しているサービスに当社のデータを組み込むことで、付加価値を高められる」と話す(写真1)。

写真1:ヤフー テクノロジーグループデータ統括本部 データソリューション事業本部長

 DS.APIで得られるデータはすべて統計データで、個人を特定できるデータは含まれない。当面、Yahoo!の各種サービス利用者の検索データに限り提供し、今後に購買データの追加を予定する。利用料金は、基本使用料が月額10万円、1回のAPIリクエストにつき1〜5円の従量制料金が発生する。

 APIサービスの開始に合わせて、利用料を5000円割り引くキャンペーンを実施する。谷口氏は、「5000円あれば、例えば自社商品10点と競合製品5点を登録し、それらの検索状況を毎日チェックしても十分余裕がある」とする。今後はソリューションパートナーを対象に、DS.APIを組み込んだサービスを開発できる商品プランも提供する予定である。

8000万ユーザーの行動データは「役に立つ」

 ヤフーがヤフー・データソリューション(DS)事業を開始した理由を、執行役員 CDO データ統括本部長の佐々木 潔 氏は「当社自身がデータによってビジネスを伸ばせていると実感している。他社にも、Yahoo!の、さまざまなデータを活用してほしいと考えたため」とする(写真2)。

写真2:ヤフー 執行役員 CDO データ統括本部長 佐々木 潔氏

 同社では10年以上前からYahoo!の各種サービスから集められたユーザーデータを自社サービスの改善に用いてきた。例えば、Yahoo!ニュースでは、ユーザーの興味・関心に沿った関連記事を表示し、Yahoo!ショッピングでは、ユーザーの興味がありそうな商品を提案するなどだ。ヤフー社内の意思決定にもユーザーデータを活用している。佐々木潔氏は、シンプルに「データは役に立つ」と断言する。

 DSには、「DS.INSIGHT」と「DS.ANALYSIS」の2種類のサービスがある。DS.INSIGHTは、利用企業が自らヤフーのデータを分析するためのWebベースのツールである。サービス開始から1年間に、約80回の機能追加と改善を実施してきた。広告代理店やコンサルティング会社向けのパートナー販売向けプランや、自治体向けプランなど商品体系も拡大している。

 2020年は、コロナ禍で地域をまたいだ人の移動に注目が集まったことからDS.INSIGHTでは、人の移動に関するデータを全国47の都道府県、20の政令指定都市に無償提供した。大阪府や長野県、神戸市などでは各首長が記者会見でヤフーのデータを利用した資料を使っていたという。

 DS.ANALYSISは、ヤフーのデータアナリストがチームを作り、顧客の求めに応じてヤフーが持つデータを分析してレポーティングするサービスだ。すでに製薬や官公庁・自治体などで多く利用されている。

 企業の利用例としては、カタログ通販サービスの「BELLE MAISON」を展開する千趣会を挙げる。DS.INSIGHTを活用し、検索動向から「何に興味を持っているか」を分析しているという。最近では、女性客がエコバッグについてどんな興味があるかを調べたところ「コンビニサイズ」という検索ワードが多く出てきたことから「コンビニサイズという商品の訴求ができるのではないか」と気づいたという。

 スカパーは、DS.ANALYSISを利用する1社。契約者の退会防止において、競合他社に乗り換えているのではとの疑問を持っていた。そこでDS ANALYSISで解約者に特徴的な検索キーワードを分析した結果、競合へ流出ではなく、顧客自身の経済的事情などの問題が大きいことがわかり、競合対策や退会しそうな顧客の引き留め策よりも、顧客満足度を高める施策が有効という考えに至ったという。

将来は企業の月額契約で利用ユーザー数を無制限に?!

 DS事業は、「当初目標はサービス開始後4カ月で100社に対し2倍の200社の記録し、その後も順調に利用を伸ばしている」(佐々木氏)という。だが課題もある。実際にデータ分析に携わるユーザー数が伸びないことだ。

 DS.INSIGHTにおいて当初は、採用企業が増えれば、ビジネスパーソンの間にデータを共通語にした利用が広がると考えていた。ところが実際は、「一企業と契約しても、その企業内でDSを扱う人は1人または数人に限定されてしまっている」(同)という。

 原因は、「サービスの契約形態がユーザー数単位だから」と佐々木氏は見る。現在は、1ライセンスが月額10万円、10ライセンスは50万円といったユーザー数によって課金している。「結果、企業内で活用する人数が限定されてしまい、データ活用の文化が広がらなかった」(同)

 そこで2020年11月5日から「全員DXキャンペーン」を投入し、月額10万円でユーザー数を無制限にした。谷口氏は、「まずはキャンペーンとしてスタートするが、ゆくゆくはユーザー課金を撤廃したいと考えている」とし、将来的にDS INSIGHTのサービスは、1企業月額10万円で使えるようになるという見通しを示した。

 「予測不可能」といわれるウイズコロナの時代、自社が持つデータだけでは、その延長線上に未来はない。ヤフーが持つ消費者の検索ワードや行動変化のサインは、有効な判断材料の1つになるだろう。