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内製化を指向するDX時代の人材戦略に必要な新常識、ガートナージャパンが提言
デジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組むために、IT部門においても内製化に向けた人材の強化と育成に乗り出すケースが増えている。しかし米調査会社ガートナーの日本法人は、「固有の人材戦略を手掛けたことがないIT部門では人材を上手く活用できない」と指摘する。その背景には、若手人材の働き方に対する常識がすでに異なっていることがあるという。2021年2月15日に発表した
デジタルトランスフォーメーション(DX)人材の不足が叫ばれ、同人材の獲得・育成に向けた取り組みが盛んになっている。日本でも内製化に向けた人材強化や育成・獲得に動くIT部門が増えている。
だが、ガートナージャパンによれば、「IT部門は人材の採用や定着に関する知識が少ないこともあり、結果的に優秀な人材を採用できてもその能力を十分に発揮させられなかったり、自社に合わない改革策を導入し組織全体の士気を低下させてしまったりする例が散見される」。
こうした掛け違いの背景には、日本企業における人材に関する4つの誤った考え方があるという。(1)忠誠心や帰属意識が高い、(2)若い世代はプライベートな時間を重視し残業を嫌う、(3)パフォーマーは給与でつなぎとめる、(4)必要なスキルを予測し教育する、だ(図1)。
これらに対し米ガートナーはグローバルに調査を実施した。結果、忠誠心や帰属意識において、「今の会社で働き続けたい」と考えている人の割合は、世界平均の39%に対し日本は35.8%で世界平均を下回っている。
若い世代についても、2018年以降、企業には「ミレニアル世代(1980~1994年生まれ)」と「Z世代(1995年以降の生まれ)」の異なる2種類の世代が存在しており、ミレニアル世代がワークライフバランスを重視する傾向が強いのに対し、Z世代は業務を通じて経験の幅を広げ自己の成長に期待を示す傾向が強い。
パフォーマーの獲得では、入社の決め手は「給与」と「企業の成長性と安定性」が常に上位を占める一方で、退職の決め手では「同僚の能力」「マネジャーの能力」「人事管理」などが重視される。つまり、給与や処遇で人材を獲得しても、彼らが活躍できる組織文化が醸成されていなければ退職リスクは抑制できない。
スキルにおいても同社の調査では、予測に基づいて習得したスキルの50%以上が使われておらず、むしろ予測せずに都度、ニーズに応じてスキル教育を実施したほうが活用されるスキルは多かった。技術の進化が激しく、経営環境が不透明な現代において、中期的に必要なスキルのすべてをCIOが確実に予測するのは不可能だという。
ではどうすれば良いのか。ディスティングイッシュト バイス プレジデントでガートナー フェローの足立 祐子 氏は、4つの正解を前提とした具体策を提言する。
まず従業員の定着では、「従業員を管理する」という発想から「従業員エンゲージメントを強化する」という発想の転換が有効とする。具体的には、キャリアパスや業務の割り当て方法を見直し、やりがいや成長機会を感じられるようにする、業務と個人の目標を結び付け現在の業務を意味あるものにする、リーダーシップやスキルアップなどの教育や支援を行うなどが考えられるという。
ミレニアル世代とZ世代への対応では、働き方のルールやガイドラインを全社一律に設定するのではなく、個人が働き方や働く場所を選択できるようにする。例として、オフィスやサテライトオフィス、自宅など複数の場所で業務を遂行できる「ハイブリッド・ワークプレース」の導入や、世代間・他部門とのコミュニケーションや協業の促進、従業員の健康を損なわないように稼働状況を把握・分析するツールの活用などを挙げる。
スキル教育では、タイプに分けた育成が望ましいとする。マネジメントや意思決定、分析評価、経営分析など不変的なビジネススキルは中長期的な育成計画を適用し、データサイエンスなど今後は必須になるスキルと、経営戦略の実行に直結するテクニカルスキルには1年程度の短期間の育成計画を、これら以外のスキルには都度柔軟な育成計画を、それぞれ実行することを推奨する。
これらを実践するCIO(最高情報責任者)に求められる役割について足立氏は「リモートワークの浸透や従業員の世代交代を契機に、人材に関する常識は通用しなくなりつつある。CIOは、従業員の就業意欲、働き方、スキル習得などに関する知識を常に更新し、時流に即した人材戦略と施策を進めるとともに、テクノロジーを駆使しながら自由で創造的な働き方ができるように方向転換を主導していく必要がある」としている。