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リモートワークで増える“仕事のための仕事”や“巻き込まれ型”が生産性を低下させる

仕事時間の使い方や生産性を聞く『仕事の解剖学』2021年版より

DIGITAL X 編集部
2021年3月11日

日本は“巻き込まれ型”のメールとビデオ会議が多い

 『仕事の解剖学』の結果をみれば、リモートワークでは先行していたとされる欧米においても、COVID-19対策下のリモートワークでは生産性が落ちている。COVID-19対策としてリモートワークに本格的に取り組み始めた日本企業にあっては今後、海外企業同様に、より労働時間が増え生産性が下がるのか予断を許さない。

 懸念材料として田村氏は、日本では「5つに1つの締め切りに遅れている」ことを挙げる(図5)。生産性を下げている要因には、(1)仕事の量が多すぎる、(2)メールやメッセージに対応しなければならない、(3)会議やビデオ通話の数が多すぎる、などがある。

図5:日本の労働者は「5つに1つの締め切りに遅れている(左)。仕事量の多さが最大の障壁だ(出所:『仕事の解剖学』2021年版)

 なかでも「“巻き込まれ型”の会議が多く、リモートワーク時代には大きな障害になりかねない」と田村氏は警鐘を鳴らす。

 “巻き込まれ型”とは、メールにおける「CC」にみられる「とりあえず関係者全員に知らせておこう」といったコミュニケーションスタイルのこと。CCでの連絡は、対応が必要かどうかの判断を求められ、個々人の生産性はもとより、意思決定速度や主体性の低下にもつながっていく。日本では以前から、必要以上にCCに関係者を入れる傾向が強いことが指摘されている。

 その手法をビデオ会議にも適用し、多くの関係者が招集されている。田村氏は、「メールは非同期型のコミュニケーションのため、メールを見る時間をまだ自身がコントロールできる。だがビデオ会議は、同じ時間帯に参加しなければならず、メール以上に拘束力が強い。テレワーク下では、社内の情報共有のあり方も十分に検討する必要がある」と強調する。

 こうしたテレワークに伴う生産性の低下は、「燃え尽き症候群」や自己肯定ができずに自信を喪失する「インポスター症候群」のリスクにもつながっていく。燃え尽き症候群の発生リスクは日本は海外に比べ最も低いものの、2人に1人(52%)がその傾向があるとし、従業員の44%が2020年に「自身の能力や達成内容に疑問を持つ」インポスター症候群を経験したとする(図6)。

図6:インポスター症候群を経験した従業員の割合(出所:『仕事の解剖学』2021年版)

 田村氏は、「実際のオフィスであれば、誰かの仕事を手伝ったり手伝ってもらったりするなかで『ありがとう』という会話が意識的になされてきた。それがリモートワークという閉じた環境では、自己が肯定される機会が減っている。オフィス環境やリモートワーク環境の見直しでは、こうしたメンタルへの影響を十分に考える必要がある」と話す。

チームとしての効率をテクノロジーで高める

 これらの課題認識の下、従業員が考える2021年に組織が取り組むべき優先事項としては、「チームの仕事効率を上げるためのテクノロジー」と「柔軟な勤務時間」が33%で並び、「プロセスおよび優先順位についての透明性」が30%で拮抗する。高めたいスキルにおいても「ITとテクノロジー」がトップである。

 “仕事のための仕事”を減らし付加価値の高い仕事に集中できるようにすると同時に、個々人が達成感を得られるような環境整備も必要になる。そのためにはメールとビデオ会議といったツールだけで個人のテレワークを推進するだけでは不十分だろう。

 そうした取り組み例として田村氏はJAL(日本航空)と切削・研削加工を手掛ける中堅企業のテック長沢を挙げる。

 JALでは、グローバルなマーケティング施策を全世界のチームが連携しながら展開している。社外の協力会社の数も多い。そこでは、分散型ワークを効果的かつ効率的に実行し、透明性やオープンな会話が実現されているという。

 一方のテック長沢では、ワークマネジメントツールの導入により、ほぼすべての会議時間が半減し、役員会議は定時で終了するようになった。ツールを活用することで顧客対応など価値が高い業務に当てる時間を増やしている。

 リモートワークに向けて企業は、チャットやビデオ会議などを導入し、オフィスでこなしてきた仕事を従業員宅でこなすようになった。結果、提案書の作成や業務改革など種々のテーマで仕事が分散してもいる。

 しかし仕事は、個人でするものだけではない。グループ会社や外部のパートナー企業とも連携する必要がある。それぞれが目標に向かいつつ、組織としての足並みをそろえなければならない。そのためのツールの1つがワークマネジメントツールである。

 これからのリモートワーク環境の実現には、複数人が分散かつコラボレーションしながら、会社全体のゴールをどう成し遂げるかがテーマになる。