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リモートワークで増える“仕事のための仕事”や“巻き込まれ型”が生産性を低下させる

仕事時間の使い方や生産性を聞く『仕事の解剖学』2021年版より

DIGITAL X 編集部
2021年3月11日

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大に伴い、企業が働き方改革への取り組みを加速させるなか、リモートワークの導入に伴って“仕事のための仕事”が増えている−−。こんな調査結果をワークマネジメントツールを提供する米Asanaの日本法人が2021年1月26日に発表している。企業におけるの仕事への時間の使い方や生産性について調査した。

 『仕事の解剖学』は、企業における仕事への時間の使い方や生産性について英調査会社のSapio Researchが、ワークマネジメントツールを開発・販売する米Asanaの支援でグローバルに調査したもの。米カリフォルニア大学バークレー校の認知神経科学者であるSahar Yousef(サハル・ユーセフ)教授が監修している。Yousef教授は「Becoming Superhuman Lab」を運営し、生産性科学の研究者だ。

 2021年版(第2版)の調査は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が世界的に広がるなか2020年10月に実施した。対象は、日本、オーストラリア、ニュージーランド、フランス、ドイツ、シンガポール、イギリス、アメリカの8カ国計1万3123人である。日本では、最初の緊急事態宣言が解除され、経済活動が再開されつつあるタイミングに当たる。

 調査結果について、米Asanaの日本法人であるAsana Japanの代表取締役 General Managerの田村 元 氏は「COVID-19が世界に拡大した2020年は、企業が働き方を大きく変える契機の年になった。在宅勤務の本格導入など新たなチャレンジが生まれる中で、リモートワークによる『分散型ワーク』が課題になっていることが浮き彫りになっている」と総括する(写真1)。

写真1:Asana Japan代表取締役 General Managerの田村 元 氏

 分散型ワークの課題とは、どういうことか。『仕事の解剖学』2021年版の結果を順を追ってみてみよう。

”重複作業”と”仕事のための仕事”が増加

 まず労働時間は、2019年の前回調査と比べ、残業時間の長短に関わらず増えている。日本だけでなく、グローバルに共通だ(図1)。1日の残業時間が「1〜2時間」とする回答者が約20%、「2〜3時間」も10%あった。「3時間以上」とする回答者も少なくない。

図1:2019年と2020年の残業時間の比較(出所:『仕事の解剖学』2021年版)

 残業時間数は日本では前回の282時間から334時間に増えている。だがグローバルでは、2019年の242時間が455時間へと日本以上に増えている。その背景には、不要な会議やビデオ会議、および重複作業の増加がある(図2)。結果としてリモートワークの生産性を落としている。

図2:重複作業に浪費する平均時間(出所:『仕事の解剖学』2021年版)

 重複作業とは、誰かが手を付けていたり、すでに結果が出ていたりすることを改めて実行してしまうこと。「作業のそれぞれは自身の仕事を進めるうえで必要なことであるため、リモート環境で仕事に取り組んでいると、誰かと重複していることに気づけず、それぞれが進めてしまう」(田村氏)ことが、重複作業が増える理由だ。

 労働時間の増加においてはさらに、“仕事のための仕事”が増えていることが大きな要因になっている。1日のうち、専門的な作業や戦略策定など“本来の仕事”に費やしている時間を除けば、1日の仕事のうち60%が付加価値を生まない“仕事のための仕事”に費やされている(図3)。

図3:“仕事のための仕事”に1日の60%を費やしている(左)。会議や重複する仕事、検索に掛ける時間が増えている(出所:『仕事の解剖学』2021年版)

 “仕事のための仕事”には、会議やプロジェクトの進捗確認、情報検索などが相当する。実際にオフィス環境であれば、口頭での進捗確認なども可能だが、リモートワークの環境では、「報・連・相(報告、連絡、相談)のためだけの資料作成や会議などに時間が費やされている。検索時間が急増しているのも、そうした理由が背景にある」(田村氏)。

 加えて社内外のコミュニケーションツールに、顧客別などにメールやチャット、Facebookなどのメッセージソフトなど複数を使い分ける傾向が強まっている。
アプリの使用数はグローバルにみても10種前後。それらを1日に切り替える回数は、日本では19回だが米国では30回にも上っている(図4)。

図4:利用しているアプリケーションの合計数と1日の切り替え回数(左)。アプリの切り替えが生産性の低下を招いている(出所:『仕事の解剖学』2021年版)

 生産性の科学を研究するBecoming Superhuman Labによれば、使用しなければならないアプリの数が増えると生産性を下がるのは「アプリの切り替えに加え、それぞれの受信トレイを絶えず気にしていなくてはならない」から。田村氏は「ツールの切り替えが多くなればなるほど、情報の見落としや重複作業の発生、生産性の低下につながっている」と指摘する。