• News
  • 医療・健康

患者へ投薬する薬を個々人のデータから推奨するシステム、岡山大と東北大が共同で開発

DIGITAL X 編集部
2021年4月9日

患者への最適な投薬推奨例を個々人のデータからAI(人工知能)技術を使って導き出すシステムを岡山大学と東北大学が共同で開発し、まずは腎性貧血に対する赤血球造血刺激因子製剤(ESA製剤)と鉄剤投与への応用を進めている。専門医の思考を学習させることで、医療現場における医療従事者の負担を減らせるという。岡山大が2021年3月19日に発表した。

 岡山大学と東北大学が開発しているのは、AI(人工知能)技術を使った投薬支援のための仕組み(図1)。臨床データの選択と補完により学習効率を高めることで、専門医の思考に基づいた投薬の判断を再現するのが目標だ。岡山大学大学院医歯薬学総合研究科(医学系)病理学(免疫病理)分野の大原 利章 助教と、東北大学材料科学高等研究所の杉谷 宜紀 助教および水藤 寛 教授が取り組む。

図1:個々の患者への投薬を支援する仕組みの概要

 この仕組みを、腎性貧血に対する投薬問題に応用した「AI投薬支援システム(AISACS)」を開発した。投薬量の適正化や医療者の労力軽減を図れると期待する。AISACSの開発には、重井医学研究所附属病院の池田 弘 部長(当時)と櫻間 教文 部長、岡山大学病院血液浄化療法部の木野村 賢 講師、小林内科の原口 総一郎 院長が共同で携わった。

 腎性貧血は慢性腎不全によって認められる症状で、その治療として赤血球造血刺激因子製剤(ESA製剤)や鉄剤を投与する。ただESA製剤は高額なうえに、腎性貧血を防ぎながら適切な投与が必要で、その判断には、ある程度の臨床経験が求められる。日本では現在、透析治療を受ける患者数は30万人を超え、高齢化に伴って増加しているが、充分な数の専門医を配置できていない地域もある。

 AISACSは、透析加療中の使用を想定する。患者個々人の投薬歴やこれまでの採血データに、当日の採血データを組み合わせて、その患者に投薬すべき最適な投薬量を熟練の専門医のノウハウなどを学習したAI技術で判断する。研究では、ESA製剤、鉄剤ともに90%以上の割合で臨床的に正しい投薬判断を出力できるという結果を得たとしている。

図2:患者のデータから最適な投薬推奨例を表示する「AISACS」の入力画面の例

 単に生体反応の予測ではなく、医師の思考に基づく投薬の判断を再現するため、先読みの指示も可能だとする。実際の投薬とAISACSの比較では、ESA製剤は7~8%、鉄剤は5%で先読みの指示を出していることが分かった。AISACSを使えば、よりきめ細かな投薬管理ができる可能性を示唆しているという。

 近年、医療へのAI技術の適用が進んでいる。だが投薬支援での活用においては、投薬に関するビッグデータが日本では集めにくいことや、実際の臨床データには処理すべき対象外の情報も含まれていることから、機械学習が困難という問題がある。今回の仕組みでは、医療分野で活用例が多い画像データもビッグデータも使わっていない。

 今後は、AI投薬支援の仕組みを、さまざまな投薬に応用できるよう、いくつかの分野での実用化を目指す。例えば、集中治療室の血糖管理への応用研究を東北医科薬科大学心臓血管外科の川本 俊輔 教授、鎌倉 美穂 研究員と進めている。パートナー企業も募り研究開発を加速させたい考えだ。

 なお今回の研究成果の詳細は、オーストラリアの医科学誌『International Journal of Medical Sciences』に2021年2月22日に掲載された。