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心血管疾患のリスクを歩数増やすヘルスケア用スマホアプリが抑える、DeNA子会社が研究

DIGITAL X 編集部
2021年4月15日

心血管疾患に対し、ヘルスケア向けスマートフォン用アプリケーションによって歩数が増えれば体重や血糖値、コレステロール値を改善し、そのリスクを抑える――。こんな研究結果をDeNAの子会社であるDeSCヘルスケアが2021年3月29日に発表した。ヘルスアプリから得た5000人以上の歩数と健康診断データなどから、両者の関連を解析した。

 DeNAの子会社であるDeSCヘルスケアが順天堂大学などと取り組んでいるのは、(1)ヘルスケア向けスマートフォン用アプリケーションの利用と歩数など身体活動の関連、(2)歩数の増加と心血管疾患リスクとの関連、を評価する研究である。DeSCヘルスケアが提供するスマホアプリ「kencom」から得られる毎日の歩数に、年1回の健康診断データや保険請求データ(レセプト)を統合して解析する。

 解析の対象にしたkencomのデータは、2015年1月から2019年6月までを対象に利用者からの許諾を得たもの。利用者の平均年齢は44.1±10.2歳で、おおむね健康だった。歩数の解析では1万2602人分の、心血管疾患リスクの解析では5473人分のデータが対象になった。

 研究の結果、(1)アプリの登録利用が平均歩数の増加と関連する、(2)歩数増加が心血管疾患の検査結果数値と関連するという示唆を得た。まず前者については、アプリの登録利用前後で年間平均で1日当たり510歩の歩数上昇が認められた(図1)。

図1:ヘルスアプリ「kencom」登録後の1日当たりの平均歩数の変化。左矢印が登録前、右矢印が登録後

 kencomでは、アプリの利用者間で歩数を競うウォーキングイベント「歩活(あるかつ)」を展開している。歩活の参加者は不参加者に比べ平均して1日当たり約1000~2000歩程度、歩数が多い傾向にあり、歩数増加に寄与したことが示唆された。

 歩活は、緩やかに行動を促す「ナッジ理論」の要件を満たすアプリ。特に、皆がやっていると一緒にやりたくなる心理である「同調効果」の影響が大きいと考えられるとしている。

 一方の歩数増加と心血管疾患リスクとの関連については、心血管疾患に関わる検査結果の数値において、平均歩数が増加した利用者は、そうでない利用者に対し、体重や血糖値、コレステロールなどの項目に改善が見られた。

 平均歩数の変化量に応じて利用者を5グループに分け、変化量が多い最上位グループと少ない最下位グループを比較すると、最上位グループの方が、体重やLDL(悪玉)コレステロール、血糖値のマーカー「HbA1c」の数値が有意に低い傾向が見られた。逆にHDL(善玉)コレステロールについては、最上位グループの方の数値が高い傾向が見られた(図2)。

図2:利用者の平均歩数(横軸)の変化に応じた心血管疾患の検査結果数値(縦軸)の変化。横軸は右に行くほど歩数が多いグループになる

 これらの関連性は、年齢や性別、BMI(体重と身長から算出される肥満度を表す体格指数)、喫煙、飲酒などの因子で調整した後も有意だった。

 今回の研究成果は『Journal of Medical Internet Research』誌に論文採択された。2021年3月27日には第85回日本循環器学会学術集会で発表された。大規模な集団を対象に、アプリの健康への影響を定量的に検証した事例は稀だという。科学的な効果検証を受けているアプリはあるものの、母集団が小さかったり種々のバイアスが除去できていなかったりするケースがほとんどだとしている。

 なお本研究は、DeSCヘルスケアの森正樹 博士、松島龍司 学士、中野憲 修士、三宅邦明医師、谷芳明 修士に加え、ブリガム・アンド・ウィメンズ病院 予防医学部門の濱谷陸太 医師と、順天堂大学大学院医学研究科先端予防医学・健康情報学講座の福田洋 特任教授、青森県立保健大学の竹林正樹 客員研究員、順天堂大学医学部 総合診療科学講座の横川博英先任准教授による共同研究である。