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7割が最優先でないとする「ジェンダー・エクイティー」にデジタルは寄与できるか、米IBMのシンクタンクが調査

DIGITAL X 編集部
2021年6月22日

男女間の不平等解消を目指す「ジェンダー・エクイティー」について、世界の企業の70%は最優先事項とえず、目標を設定している企業は48%に減少--。こんな調査結果を米IBMのシンクタンクが発表した。併せて、こうした状況の改善にデジタル技術が寄与できる部分があるという。2021年3月8日(米国時間)に発表した。

 米IBMのシンクタンクであるIBM Institute for Business Value(IBV)が発表した『ジェンダー・インクルージョン施策の危機』は、男女間の不平等を解消する「ジェンダー・エクイティー」への取り組み状況を世界9地域10業種に対し調査したもの。2019年に続き今回が2回目で、役員や中間管理職、専門職に就く2600人超が回答した。回答者の性別は男女同数だ。

 同調査によれば、全世界の企業の70%がジェンダー・エクイティーを最優先事項にしていなかった。ジェンダー・エクイティーの目標を設定しているとの回答も、2019年時の66%から18ポイント減少の48%と半数以下だった。

 ジェンダー・エクイティーが最優先ではない理由について、回答者の4人に1人は「すでに重要なビジネス目標として位置づけられているから」としたが、「できるときにやればよい」というスタンスを取る人が58%と半数を超えた。IBMは「公式なコミットメントとビジョン抜きに、成功への道筋は見えてこない」とする。

 実際、執行役員や事業部長、上級管理職などのポストに就いている女性の数は2年前より減少している(図1)。女性の経営層へ続く道筋が縮小していることになる。2020年は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)により世界経済が急激に悪化したが、ダイバーシティー(多様性)とインクルージョン(包摂)の推進活動は大きな影響を受けたようだ。

図1:経営層を担える女性管理職の道筋が縮小

 そうしたなか、ジェンダー・インクルージョンに意欲的なグループでは、調査対象にした経営ポストのいずれでも女性の占める割合が高かった(図2)。同グループの収益増加率は他の企業より平均で61%高い。

図2:女性経営層が占める割合における先駆的企業と、その他企業の違い

 同グループでは、「自社は競合他社よりも革新的だ」と考える企業も60%と他の企業より22ポイントも高い。「業界で最高の顧客満足度を実現している」との回答も、他企業が46%に留まるのに対し、73%だった。従業員満足度や従業員定着率に関しても同様の傾向にある。

 ただし、男女を区別しない採用基準や女性の育児休業など、ジェンダー・エクイティーとインクルージョンに向けたプログラムを実践した企業の数は2019年より全世界で増えている(図3)。

図3:実施されているジェンダー・エクイティーとインクルージョンの促進プログラムの内容

 一方で、例えば北欧諸国のように関連する政策が充実している地域でも「職場は男性優位である」と答えた男性が13%に対し女性は30%、米国では男性の16%に対し女性が25%と、必ずしも良い結果につながっていないことを示す結果もある。

 今回の調査結果を受けてIBVは、ジェンダー・エクイティーとダイバーシティーに持続的に取り組むためのロードマップとして次の5つを挙げる。

(1)最大限のコミットをもって大胆に思考する
(2)場をつくる
(3)リスク発生時の具体的な介入策を明確にする
(4)テクノロジーを活用してパフォーマンスを加速させる
(5)価値実現を企図する文化を創造する

 このうちデジタルテクノロジーの活用については、企業の人材採用におけるバイアスを防ぎ、差別しないためには、データ、アナリティクス、AI(人工知能)が有効な手段だとする。

 これらは同時に「顧客中心」のアプローチにとっても有用であり、ジェンダー、ダイバーシティー、インクルージョンの施策策定も役立つとする。

 具体的な対策としては、アイデアを明確にし、その妥当性をツールを使って検証すること、コロナ禍終息後も全スタッフが物理的な距離を意識せずにリモートで仕事ができるようコラボレーション・ツールや人的支援に資金を投じる、採用選考における基準の公正さの担保にAIを活用する、などを挙げる。

 AIについては、ジェンダーや年齢、人種に関する差別的な言葉を検知することで、人手によるよりも、より広範囲から有能な人材を確保できるとする。そのためには、多様性に富むスタッフで構成された「AI倫理チーム」を置いて、啓発とプロトコルの構築に取り組むべきだとしている。

 ロードマップの指摘点は、「顧客中心」のアプローチにとっても有用とするように、デジタルトランスフォーメーション(DX)への取り組みを成功させるための指摘点とも共通だ。DXの文脈でSDGs(持続可能な開発目標)が語られてもいる。ダイバーシティーやインクルージョンなどを、これらとは別の課題と位置付けないことが重要かもしれない。