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時系列データにおける異常要因を特定する技術、富士通が仏Inriaと共同開発
時系列データのAI(人工知能)技術による分析において、AIシステムが異常だと判定した要因を特定するための技術を、富士通とフランスの国立研究機関であるInriaが共同で開発した。昨今のAI技術による時系列データの分析では、判定の根拠や異常の要因を専門家でも特定が難しく、新技術は根拠の説明などを支援できるという。2021年7月16日に発表した。
富士通とフランスの国立研究機関Inriaが開発したのは、時系列データをAI(人工知能)技術で分析した際に、“異常”だと判定した要因を特定するための技術。正常時と異常時の時系列データの形状を可視化・比較することで、AI技術による判定結果の根拠の説明や異常要因の分析を支援する。富士通は2021年度中に同社のAI技術「FUJITSU Human Centric AI Zinrai(ジンライ)」の1つとしての実用化を目指す。
新技術ではまず、AIシステムが異常と判定した時系列データに対し、異常判定の要因となった特徴と、そうでない特徴を「TDA(Topological Data Analysis)空間」にマッピングする(図1の①)。TDAは、データをある空間内に配置された点の集合とみなし、その集合の幾何的な情報を抽出する手法である。
TDA空間において、要因となった特徴の点データを、要因でない特徴の点データ群に近付けた後、その点データ群の特性から異常と判定するための要因を持たない時系列データを生成する(図1の②)。
この異常の判定要因を持たない時系列データを、異常と判定された時系列データに重ね合わせ、それぞれの形状を比較すれば、異常と判定した要因が浮かび上がってくるとしている(図1の③)。
新技術を医学に応用した例に、意識障害の一種である「せん妄」を脳波から検出する研究がある。
同研究に米アイオワ大学で取り組む篠崎 元 氏(現スタンフォード大学准教授)が、同意を得た延べ約600人のせん妄患者の脳波データからせん妄症状を検出したところ、せん妄発症時の脳波に「徐波」と呼ばれる緩やかな波が混入した状態「Slowing現象」と、時系列データの波形の特徴が一致することが確認できたという。
この結果から、時系列データの観察が、診断時の読影の参考にできると期待される。ほかにも、これまで困難とされてきた病気の予兆判断や予防的な治療法の発見、未解明な病態のメカニズム解明への応用など医学的発展につながるという。
富士通によれば、ヘルスケアや社会インフラ、ものづくり分野など種々の場面で時系列データが収集され、AI技術による状況判断や異常検知の実現が進んでいる。
しかし、判定結果の根拠を説明することが求められるなか、時系列データの場合は、判定要因が多種多様で、それぞれが複雑に関係しているため、異常と判定されたデータを見るだけでは、専門家でも、どのようなデータの変化が異常判定に影響したのかに気付きにくく、事象と照らし合わせた原因究明や新たな知見の発見につなげるのが困難だった。
富士通とInriaは今後、新技術を企業の業務現場や研究機関の実験などに適用し、技術の検証・改良を重ねる。